光文社から田村秀男の「日経新聞の真実」という新書が出版されている。著者は、産経新聞に移籍した元日経新聞記者。いわゆる暴露本である。
前半は当たり前のことが書かれており白けた記憶があるが、後半は読みごたえがあった。(副題に「なぜ御用メディアと言われるのか」と書かれているようにマスコミ、財務省、日本銀行が批判的に描かれている。)発刊は2013年3月である。
大体読まなくても内容は判るという人は多いと思うし、そのとおりだ。
ただ、一つ非常に印象に残ったことがあった。 それは、民主党政権時代に円高と株安が同時に起こったが、日本株の半分を所有する外人投資家からみると、円高になると名目(日本円)の株価が同じでも利益が上がることになる。この外人投資はファンドを通じて購入されており、ファンドごとにアメリカ株、ヨーロッパ株、新興国株、日本株などの配分割合(ポートフォリオ)は一定になるようにコンピュータプログラムされている。円高が進行すれば外国ファンドは儲けをを上げることになる。このため、利益が確定するとプログラムはこの日本株の売却命令を出し、円高と株安が同時に起こったように見える。
現在ははアベノミクスで大幅な円安となり、全く逆のことが起こっているのは周知のとおり。円安になると、外人投資家にとっては評価額が下がり、ポートフォリオも下がるので、プログラムは購入命令を出し日本の株価は上がるのである。もちろん個別の会社事情や業態、日本の輸出依存の体質などの理由もあるだろう。だが、一番大きな理由であるということは間違いがない。近年のマネーゲームは1秒の何千分の1のスピードを単位にしながら、巨大マネーが様々な判断材料をパラメータにプログラムされ地球上を駆け回っているが、どれも似たようなものだ。
外人投資家が半分を占める日本の株価は、為替レートの変動の影響が非常に大きい。言ってみれば、為替が先、株価が後だ。 だが、日経新聞は相変わらず業績の見込みが改善したから株価が上がったという記事を書いている。なかなか、為替の変動に伴う、株価総額の約半分を占める外国のコンピュータプログラムの売買が、最大の原因とは書かない。
アベノミクスが始まって9か月、誰の目にも明らかな相関関係だが、それを書いてしまうと国内の個人投資家は経済新聞を読む意味を失い、個人投資家は証券会社の投資セミナーなどに出かける動機を失うからだろう。