見たことのない景色 錦織圭

錦織圭が快進撃をはじめた。見たことのない景色を錦織はわれわれに見せてくれている。バルセロナオープンで優勝。その後のマドリッドオープンで準優勝。バルセロナオープンはATP500の大会だが、マドリッドはATP1000の大会だ。この二つの試合の結果、錦織の世界ランクは自己(日本人)最高の9位となった。

ATP1000というのは、ATPが “Association of Tennis Professionals(男子プロテニス協会)” の略、1000という数字は獲得ポイントを表している。ウインブルドンや全仏オープンなどグランドスラム4大会はさらにランクが高く、優勝ポイントは2000ポイントある。マドリッドは1000ポイントの大会なので4大大会を除くと最高ランクの大会である。ちなみに、男子はATPだが、女子はWTAといい ”Women’s Tennis Association(女子テニス協会)” を略している。大会は、規模により基本的に250, 500, 1000, 2000の4種類に分かれる。ATPの下にはチャレンジャー、フューチャーズという下部大会もある。当然大きい規模の大会は賞金総額も大きく、有力選手が参加する。このポイントによるランキングは毎週更新され、選手は大きな大会ほど出場しようとする。テニスシーズンは1年のうち12月だけが休みだ。ランキングのもとになるポイントの有効期間は1年間なので、試合に出ないとランキングはすぐに下がってしまう。

参考までに2014年5月26日現在のランキングをみると、1位はナダルで12,500ポイント、2位ジョコビッチは11,850ポイント、3位はバブリンカで5,830ポイントだ。錦織は10位で2,815ポイントだ。(錦織は準優勝した直後のローマ大会を欠場したため、好成績を残したランキング10位のラオニッチと入れ替わった。)こうしてみると、世界のトップになるには1万ポイントを超えることが必要なので、4大大会で何度か優勝し、何度も準優勝する、ATP1000の大会でも何度か優勝するなどをしないとトップの座に就くことは出来ない。

当然錦織も10代のデビュー当時は、下部大会でポイントを獲得し、徐々にATPツアーへと移って行った。錦織以外の男子日本選手は、添田豪、伊藤竜馬、杉田祐一、最近ではダニエル太郎などが錦織を追っている。しかし、今のところは、彼らはなかなか錦織ほどの結果は残せていないようだ。

バルセロナ大会、マドリッド大会ともにクレーの大会だが、同じレッドクレーで行われる全仏オープンの前哨戦だ。錦織はもっともトローク力が要求されるクレーでの優勝はこれまでなかった。バルセロナ大会の決勝での対戦相手はヒラルド(コロンビア)、マドリッド大会は世界ランキング1位のナダル(スペイン)が対戦相手だった。このマドリッド大会では準決勝のフェレール(スペイン)戦も見ごたえがあった。第3セット、1セットオール、ゲームカウント5-3で錦織リード。ここで、錦織のサーブで40-0。つまり、あと1ポイントとれば、錦織勝利の場面なのだが、錦織自身が言う「悪い癖」が出る。そのあと3ポイントを連取されジュースになる。このジュースがハラハラ延々続く。マッチポイントは錦織に9回あり、フェレールにはブレークポイントが4回あった。錦織は10回目に最後の勝利ポイントを決めた。フェレールは地元の選手で、錦織にとっては完璧アウェイ状態。もともとしぶといプレーが身上のフェレールに、観客は大熱狂。サーブの態勢に入ったアドレスの状態で、観客席からヤジが飛び、錦織がサーブのトスを中断するなど会場はヒートアップしていた。それでも錦織は主導権をフェレールに渡すことなく、淡々と自分のプレーを続け、勝ち切った。

決勝はランキング1位の対ナダル戦。この試合錦織の出足は絶好調だった。クレーの王者ナダルを相手にさらに広角に振り回し、第1セットナダルは、自分のスーパープレーを上回る錦織のスーパープレーに、なすすべなく茫然としていた。錦織6-2で第1セットを先取。第2セット最初のナダルのサービスゲームも錦織がブレーク。その後4-2と錦織はリードを保つ。ところが、第7ゲーム錦織のサービスゲーム。このあたりから錦織の体調に異変が起こる。足が動かなくなってしまうのだ。このセットをナダルにあっという間に逆転され4-6で取られる。ファイナルの第3セットは、明らかに錦織がプレーできる状態でないことが画面を見ていてもわかる。錦織は、ここで止めては観客に申し訳がないと思ったように見えた。結局、数ゲームするのだが、誰の目にもプレー続行は出来ないと分かる状態。自分から試合続行が出来ないと審判に申告する。あと10分間、錦織の体調が完全であれば錦織が勝っていた試合だった。

翌週は、全仏前の最後のクレー大会であるローマオープンが行われた。錦織は怪我のために欠場。決勝に進んだのは、マドリッドで錦織を破ったランキング1位のナダルとランキング2位のジョコビッチ。ナダルはジョコヴィッチに敗れ準優勝に甘んじる、だが、全仏の前哨戦3大会全部に出場し、優勝1回、準優勝1回した

この2大会の錦織の活躍は、世界トップ大会の決勝戦で日本人が戦っているということで、少なくとも主60年の歴史では知らない。はるか昔の時代に日本人が大きな大会の決勝戦に出ていたが、今とはテニス人口も規模も比較にならないのではないか。現在のプロテニスプレイヤーのテニスの歴史において、見たことのない景色を錦織はわれわれ日本人に見せてくれている。テニスの大会の決勝戦の後にはセレモニーがあり、主催国の国王や皇族などが勝者、敗者に賞品を授与する。準優勝者もスピーチする機会があり、皆が健闘を称えてくれる。準決勝までに負けてしまってはこのようなセレモニーに出ることはできない。こうした栄誉のある場所に日本人プレイヤーが、大観衆から祝福を受けているのだ。決勝戦まで進めないとこうした景色は実現しないからだ。

錦織がすでに始まった全仏オープンでどれだけ活躍できるかはわからない。4大大会は5セット制で行われ、シードによる1回戦免除がなく、優勝するには7回勝つ必要があるからだが、錦織の才能は大きく、他の選手にない魅力がプレーに溢れている。また、トップ10の選手の中では最も若く、それだけ将来がある。

後日談:錦織は全仏オープン(ローランギャロス)に体調が戻らないまま出場し、ランキング100位以下の新人に1回戦で負ける。錦織はブログで「体調は良くなかったが、相手がもう少しレベルが低ければ、勝てたかもしれない。」と書いていた。この大会の決勝戦は、一つ前の大会と同じ顔ぶれのナダルとジョコヴィッチが対戦する。最後は、ナダルが前回敗れたジョコビッチを破って雪辱する。ナダルから見てセットカウント2-1、第4セット5-4で迎えた最後のポイントは、ジョコヴィッチ突然ののダブルフォールトだった。この試合、ずっと見ていても、ジョコヴィッチがいつナダルを逆転するかと主は思っていたほど、拮抗していた。—- 世界のトップは、精神力、技術、体力とも揃っていないとだめだ。相撲で言うではないですか、「心技体」だよね。

 

投稿者: brasileiro365

 ジジイ(時事)ネタも取り上げています。ここ数年、YOUTUBEをよく見るようになって、世の中の見方がすっかり変わってしまいました。   好きな音楽:完全にカナダ人クラシック・ピアニスト、グレン・グールドのおたくです。他はあまり聴かないのですが、クラシック全般とジャズ、ブラジル音楽を聴きます。  2002年から4年間ブラジルに住み、2013年から2年間パプア・ニューギニアに住んでいました。これがブログ名の由来です。  アイコンの写真は、パプア・ニューギニアにいた時、ゴロカという県都で行われた部族の踊りを意味する≪シンシン(Sing Sing)≫のショーで、マッドマン(Mad Man)のお面を被っているところです。  

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