相変わらずグレン・グールドにハマっている主だが、映画もほとんど見てしまった(と思う)。残るは、「グレン・グールドをめぐる32章」(1994年)ぐらいしかない。32章と言うのは、もちろんゴールドベルグ変奏曲が、最初と最後のアリア、その間にある30の変奏曲を合わせると32曲あるつけられたタイトルだ。英語名は「32 SHORT FILMS ABOUT GLENN GOULD」で、エピソードが32個描かれている。この映画、本人ではなく、他の俳優がグールドを演じていて、「グロテスクだろうな。」と思ってずっと買わなかったものだ。
実際に買ってみて、後悔した。最低と言っていいだろう。子供時代のグールドも出てくる。ピアノのキーを人差し指でバーンと力いっぱい叩き、まるで悪夢だ。あんなに乱暴に鍵盤を叩いてどうだっちゅうのだ!そんなん、ただのガキのすることやろ!繰り返し鍵盤を押さえ、出された音が減衰して聞こえなくなるまで耳を傾けないでどうする。当たり前かもしれないが、母親も子供も他に書籍で知っている人物とまるで違っており、非常に違和感がある。
大人になったあとの俳優は、やはり無理がある。それっぽくふるまっているのだが、やっぱりグロテスク。共感できるのは身長だけだ。
最悪なのは使われている音楽も良くなかった。流れる音楽。1曲目にゴールドベルグ変奏曲のアリア。これは理解できる。2番目は「シムコー湖で」で、ワーグナーのオーケストラ曲「トリスタンとイゾルデ」。いきなりグールドの演奏ではない。最後のクレジットをよく見ると「ピアノの演奏は全てグールド」と出てくる。ピアノが出てこない演奏は、ソニーの音源を使っているとあり、必ずしもグールドと関係するものではないようだ。3番目は、「45秒と椅子」。これが意味が分からない。グールドには部屋の中央で椅子に足を組みながら座ってカメラのレンズを見据えているインパクトの強い有名な写真がある。これを真似しているのがわかるのだが、グールドの有名な「椅子」が出てこない。有名な「椅子」とは、父親が椅子の足を切り落とし、手作りした折り畳み椅子で、床から35センチしか高さがないもので、一生涯どこへ行くにも持ち歩いたものだ。
「ハンブルグ」ここに描かれているグールドは完全に変質者だ。ヨーロッパ公演の最中、ハンブルグのホテルからカナダのウォルター・ホンバーガー(グールドのマネージャー)へ宛てて、慢性の気管支炎で来週のコンサートをキャンセルするという電報を電話でグールドが依頼しているシーンだ。グールドは電話機を片手で持ちながら、部屋を掃除しに来た美人のメイドが帰らないように空いた手で引き止める。同時に、電話しながら自分が演奏するベートーベンのピアノソナタのレコードの一節を聞かせる。部屋にはグランドピアノがあるのだ。レコードのジャケットに写された自分の姿をメイドに見せて、有名人ぶりを知らせるより、自分でピアノを弾けばよいだろう。おまけにベートーヴェンのピアノソナタは13番の第2楽章のところが唐突に流れ、格別に良い選曲とは思えない。時間の長さで選んだのではないか。
この映画は本人が語る形式で作られているが、内容はいろいろな書物に書かれているものの域を出ない。これだけ陳腐な内容の映画が、いまだに絶版にならないのは、グールド人気がいかに根強いかを物語っているかと思う。「グレン・グールド」と書かれているだけで、ファンは買ってしまうのだ。ちなみに、この映画の感想をGOOGLEで検索したところ、一つも見つけることができなかった。きっと、これが最初だ。何かを書こうという気にはならない、そんな映画だ。
ただ、ラッキーだったのは、従妹のジェシー・グレイグが出ていたこと。映像はともかく音楽は楽しめたし、特にエンドロールで流れるバッハのフーガの技法は、オルガンを使った演奏で一般に高い評価とは言えないのだが、聴きやすい演奏で再発見した気分になった。
(以下は、ネットからペーストした映画の内容。)http://movie.walkerplus.com/mv16454/
1「アリア」雪原の彼方から近づく人影。 2「シムコー湖」鍵盤を叩く幼いグールド。ラジオから流れるワーグナーに涙する。 3「45秒と椅子」肘掛椅子に座る成人したグールド。 4「ブルーノ・モンサンジョン」『ゴールドベルク変奏曲』を記録した映像作家・ヴァイオリニストが語る。 5「グールド対グールド」スタジオで2人のグールドが対論する観念世界。 6「ハンブルク」演奏旅行の途中で、病気となったグールドがメイドに自分のレコードを聞かせる。 7「変奏曲ハ短調」フィルムのサウンドトラックを映写したもの。 8「練習」控室で頭の中の音楽を指揮し、舞うグールド。 9「L.A.コンサート」舞台係の男のプログラムにサインするグールド。64年のロサンゼルスでの最後の演奏会でのエピソード。 10「CD318」グールドが長年愛したピアノCD318のアクション。 11「ユーディ・メニューイン」名ヴィオリニストの回想。 12「グールドの情熱」スタジオでの録音風景。 13「弦楽四重奏曲作品1」グールド唯一の本格的作曲作品の演奏。 14「出会い」メイド、マネージャーなど関係者の証言。 15「ドライブイン」行きつけのドライブインの食堂で周囲の雑談に耳を傾けるグールド。 16「北の理念」同題のラジオ・ドキュメンタリーの制作場面。 17「孤独」ラジオ・ドキュメンタリーに関する質問に答える。 18「答えのない質問」批評家、作家たちに質問を浴びせられるが、答えはない。 19「手紙」ある女性に恋していることを友人に告白する手紙。 20「グールド対マクラレン」『平均律』第1番に基づいてノーマン・マクラレンが製作したアニメ「球体」の収録。 21「秘密の情報」グールドが株で大儲けをしたエピソード。 22「個人広告」怪しげな募集広告を書き上げるグールド。 23「錠剤」グールドが服用していた様々な薬。 24「マーガレット・パテュ」友人の回想。 25「ある日の日誌より」日誌の血圧値などのメモ書きとレントゲン撮影。機能障害でピアノが弾けなかった時のものらしい。 26「モーテル・ワワ」湖岸のモーテルで電話インタヴューを受けるグールド。 27「49」49歳の誕生日の前日、従妹のジェシーに電話をかけ、4+9が13である不安を話す。 28「ジェシー・グレイグ」その従妹の回想。 29「旅立ち」車を降りて電話ボックスに駆け込むグールド。カーラジオがグールドの訃報を知らせる。 30「ヴォイジャー」ロケットの発射。 31「アリア」惑星探査機ヴォイジャー1号と2号にはグールド演奏のバッハ『平均律クラヴィア曲集』第1巻の前奏曲第1番ハ長調が搭載された。グールドは雪原の彼方へ消え去る。 32「エンドクレジット」…
観てからだいぶ経ってあまり覚えていませんが、まったく同じ印象でした!!
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