パプアニューギニア(以下PNG)には今なお800以上の部族がおり、それぞれの言語を持っている。PNGでは、一般にピジン語が話されていると思われがちだが、ピジン語は欧米との接触後に作られ、大洋州で広く使われる言語である。ゆえに、各村では今でも800に分かれた昔からの言語がある。例えば、ポートモレスビーでは「モツ語」がここの言葉だ。モツ語はポートモレスビーだけで話される。ポートモレスビーでは、モツ語とピジン語によるラジオ放送局の2種類がある。現地の言葉とピジン語の違いだが、現地スタッフの村では2進法で数を数えており、10進法のピジン語とはまったく違う。ピジン語は言ってみれば第1外国語であり、英語は第2外国語なのだ。
現地スタッフに家族(family)の概念とワントクについての違いを聞いてみた。まず家族。家族には3種類あり、第1(nuclear)は日本で言う家族である配偶者、子供。第2(joint)は田舎に住む親、兄弟が入る。第3(extend)は日本で言う親類の概念であり、配偶者の親、兄弟やその子供たちを含む。一般に高地族は一夫多妻なので、母親は複数あることも多い。彼の場合、第3までのカテゴリーの家族は30人ほどになるそうだ。このカテゴリーまでの家族は、養育が困難になった場合などは面倒を見て、面倒を見てもらった方は豚などで対価を払ったりしてギブアンドテイクの関係になる。一方、ワントクはone talkのことなので、本来は同じ言葉を話す同郷の人を指す。だが、ワントクと言っても、ワントクが故郷以外で出会う場合は、拡大解釈される。例えば、首都ポートモレスビーで暮らすオンボさんにとっては、出身の村だけではなく、出身の村が属する州の出身者がワントクに含まれる。もし、海外でPNG人に出会うと、PNG人全部がワントクとなる。ワントクの場合は、仲間であるが困窮したからと言って生活の面倒までをみるかといえば、そういうことはない。
当たり前といってしまえば当たり前なのだが、ワントクだからといって生活の面倒を見る訳ではない。生活の面倒を見るのは家族までなのだ。家族の概念が今の日本より広く、家族の概念は日本の親戚までが範囲だ。こういう言い方もできるだろう。昔の日本もそうだったのだ、家族の概念は広かった。戦前までは、困窮したものがあれば親類縁者で支えあっていたはずだ。日本における家族の概念が、近年小さくなったのではないか。
こちらでは、「養子」にしたり、親戚の子供を育てているということがしょっちゅうあるようだ。それとて、無料奉仕でしている訳でなく、ギブアンドテイクで子供を預けている方の親は義理を感じているようだ。日本もかつてはそうだったのだと思う。