「世界でいちばん石器時代に近い国パプアニューギニア」山口由美

「世界でいちばん石器時代に近い国パプアニューギニア」(幻冬舎新書 山口由美)を読む。発行されたのは2014年11月だから、最近だ。

主がパプアニューギニアから日本へ帰国して間もないこともあってか、この国について聞かれることがときどきある。主がこの国を様子を説明したあと、「数十年前まで高地ハイランド)は石器時代だったんです!」と加えるのだが、いまいち聞き手との間に温度差があるようで、こちらが思うようには驚いてくれない。こう言えば良かったのだ、「世界でいちばん石器時代に近い国パプアニューギニア」。さすが売れ筋どころを揃えている幻冬舎、キャッチーな書名が核心を衝いている。

主は2年間パプアに住んだのだが、この本には主が知らなかったことが多く書かれ、手際よくまとめられている。山口さんは海外旅行とホテルの業界誌のフリーランス記者だったとのことで、学術的ではないものの、この国のことについて、有吉佐和子、人類の進化の過程を研究した進化生物学者のジャレド・ダイアモンド、国民的嗜好品のブアイ、いまも残る黒魔術、水木しげる、日本軍や天然資源のLNGなどなど、幅広く情報が満載されている。もし、パプアニューギニアがどんなところか興味をお持ちであれば、この本はかなりお勧めだ。

この本の中に「First Contact」という映画のことが出てくる。1930年代にオーストラリア人が金の採掘を目的にパプアニューギニアの高地(ハイランド)へ行く。こうして、石器時代の暮らしをしていたハイランダーと西洋人(近代文明)が初めて遭遇する。まるで宇宙人に会ったような言葉だが、現地の人たちにとって白人との遭遇は、まさしく宇宙人とのそれだったに違いない。

白黒フィルムで実写されているさまは、われながらボキャブラリーが乏しいなと思うが、「凄い!」の一言しかでてこない。葉っぱや草を身にまとい、鳥の羽を頭の毛に刺したハイランダーのところに、白人が現れる。ハイランダーたちは白人のことを、先祖が現れたと驚愕する。先祖が白い姿になって蘇えるという言い伝えがあったのだ。白人が空から来たのか、土の中から出てきたのか、水の中から出てきたのか、全くわからず混乱する。

ハイランダーのリーダーが白人に近づいていくと、襲われると思った白人はリーダーに発砲する。ハイランダーたちは、白人の強さを思い知る。

白人のライフル銃が、豚を一撃に殺すさまを見て泣き喚き、走り出す。蓄音機を死者の魂を閉じ込めた箱だと思い、その声(音楽)におののく。恐怖感が素直に表情に出ている。缶詰のキャンベルのフタを見て、初めて金属を目にし、貴重品だと直感したハイランダーは奪うように額の飾りにする。女性は白人たちが近づいてくると、食われるかと恐怖を抱いていたが、関係をもって「なんだ、男だ」と納得する。

YOUTUBEで、このファーストコンタクトを見ることが出来る。映画は英語だが、ハイランダーの喋る言葉は、英語の字幕が出るので分かりやすいと思う。

https://vimeo.com/51548963

次の写真は、マッドマン。毎年9月に行われる、全国各地のシンシン(踊り)が一同に見られるハイランドのゴロカショーの一枚だ。お面をずらし、顔を見せてくれた。全身に泥を塗りたくり、弓を手に持っている。主もマスクをかぶらせてもらったが、結構な重さがある。

MADMAN (2)

 

安達誠司 VS 池上彰

安達誠司さんの「ユーロの正体」(2012年11月幻冬舎新書)と「円高の正体」(2012年1月光文社新書)、池上彰さんの「池上彰のやさしい経済学2ニュースがわかる」(2013年11月日経ビジネス人文庫)の3冊を読んだ。池上彰さんの本は、読了したわけではなくざっと目を通したというところだ。

安達誠司さんの「ユーロの正体」はちょうどリーマンショック後のユーロ危機(PIGSと言われるポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペインの通貨危機)のあと出版された。それは、アメリカ発のサブプライムローンに端を発したリーマンショックにより、好調だったユーロが変調し、ギリシャは粉飾決算していたことがばれ、スペインなどでは住宅バブルがはじけ、経済が急速に悪化した。

EUは政治状況、経済状況や雇用環境などさまざまに違う国々が、そうした諸条件が揃わない状況にもかかわらず、理念を性急に追求し、各国の通貨を捨てユーロに通貨統合してしまった。このことにより、金融政策は欧州中央銀行(ECB)のみが行い、各国ごとの政策が採れなくなった。こうなることは、国ごとの不況や景気過熱に対する対処方法が致命的になくなったことを意味する。すなわち、共通通貨ユーロを使うということは、域内の各国にとって為替レートを固定するということと同義になる。ドイツは生産性の向上の儲けがマルク高になることで相殺されていたが、ユーロに代わるとどんどん競争力を増した。一方で、農業と観光を除けば取り柄のないギリシャのような国が、レートを固定してドイツなどの優等生と同じ土俵で共存するのは無理がある。

イギリスはユーロに入っていない。これは、ユーロの前身であるEMS(European Monetary System)時代に、為替安を見越したジョージ・ソロスが率いるファンドにポンドを売り浴びせられ、ポンドは暴落、変動相場へ移行せざるを得なくなったものだ。

今年、再びギリシャ危機は起こった。なんとか、EUはギリシャに借金を貸し続けることを決め、ギリシャはEUに残っている。しかし、主のブログで紹介したとおり、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツが、EUを出るべきはドイツだと言うほど矛盾は大きい。金融政策をとる余地のないギリシャにとって、EUから強制される緊縮策は出口がないとわかってくる。

一方「円高の正体」は、「円安」の今何を言うのかと感じるかもしれないが、現在でもこれまでの円高とアベノミクス以降の円安を理解するうえで、格好の書籍である。

この本では、話を単純化するために、為替レートを流通する貨幣量の比率だと説明している。普通、為替レートの説明では、購買力平価説を紹介し、二国間のマクドナルドのハンバーガーの値段の比率や、金利差などを根拠にあげることが多いのだが、単純化することで非常にわかりやすくなっている。また、バブル崩壊後ずっと、いかに人為的に円高誘導され、不況を克服するために行った財政出動が効果を上げずに、日本の借金を増やしたということが理解できる。不況下で行う消費増税が如何に逆効果か、ということもわかる。

この安達誠司さんの2冊は、経済をわかりやすく理解させ、同時に時代を超える普遍性があるので、今でも読む値打ちがある。

ところで主は、最近日経新聞を取り始めた。このおまけとして、3冊の書籍のうちから1冊を選ぶことが出来た。それで池上彰さんの「池上彰のやさしい経済学2ニュースがわかる」を選択した。池上彰さんは、テレビにしばしば登場し、書店には大量のベストセラーが並んでいる。非常にわかりやすく物事を掘り下げて説明してくれるので主もファンである。

しかし、この本は経済の主だったトピックをわかりやすく説明しているのだが、現在行われている「量的緩和」には触れていない。「流動性の罠」(金利はゼロ以下にできないため、その状態では金融政策が効かなくなること)というやや専門的なことについて触れているのだから、浜田宏一、安達誠司さんなどリフレ派の「量的緩和」により市中の貨幣流通量を増やし、その貨幣が国債や株式などの投資市場に流れることで資産効果を上げ、インフレ期待をを生み出そうという主張を紹介しないというのは、残念で公平でないような気がする。

 

アスペルガー症候群とグレン・グールド

グールドは、さまざまな疾患を生涯にわたって抱えていた。少年期の終わりには、早くも処方薬を手放せなくなり、大人になると薬を山のように飲んでいた。カナダとアメリカの国境で、あまりに大量の薬を持っているために不審がられ、税関で拘束されたくらいだ。確かグールドがデビューしたての頃の映画にも、似たようなシーンがあった。インタビュアーが旅行の時には、薬でトランク一つが一杯になっているそうですね?」と尋ねる。 それに対し、グールドは「トランクは大きすぎるよ。アタッシュケースぐらいなもんだよ」と答える!!

グールドが抱えていた疾患のうち、心気症(ヒポコンデリー)はよく知られているが、不眠や情緒不安定にも悩まされていた。複数の医師にかかり、他の医師の診察を受けていることを隠して、精神障害や情緒障害の処方薬を同時にもらい、大量に飲んでいた。彼の友人の精神科医のピーター・オストウォルドが1996年に書いた伝記を読むと、グールドの根底にある性向として、アスペルガー症候群が強く示唆されている。アスペルガー症候群が広く認知されるようになったのは、1990年代というから、グールドの生前には知られていなかった障害である。アスペルガー症候群は自閉症の一種で、対人関係が不器用で、他人の気持ちや常識を理解しづらいことから、社会に溶け込むことができずさまざまな問題を引き起こす。だが、一方で人並み外れた能力(高度な集中力や深い知識)を持っていることが特徴である。

そうした関心から「アスペルガー症候群」(岡田尊司 幻冬舎新書)を読んでみたのだが、アスペルガー症候群がグールドにまさにぴったりあてはまり、非常に驚いた。

一般にアスペルガー症候群を持つ人は、他人の気持ちを理解できづらいために周囲から疎まれ、それが原因となって、持てる能力を発揮できず、生きづらい生活になってしまう場合が多い。しかし、グールドの場合は、母親をはじめとする周囲のサポートがあったために、生涯をとおして彼が持つ高い能力を音楽の分野で発揮することができた。このため、音楽の才能をどんどん高めることが出来た。演奏のみならず、音楽評論家、作曲家、プロデューサーでもあったが、それらはすべて音楽から出たもので、(株で儲けていたとか、安倍公房原作の映画「砂の女」や夏目漱石の「草枕」に夢中になったりしたという事実などもあるにはあるが・・・)彼は音楽に人生のすべてを、土曜も日曜もなく、朝から晩まで捧げていたと言っても間違いではない。

グールドと同じくアスペルガー症候群を抱えながら功績を残した人物として、アインシュタイン、エジソン、グラハム・ベル、ヒッチ・コック、ダーウィン、西田幾多郎、ディズニー、ビル・ゲイツなど多くの例が上げられている。

以下で、アスペルガー症候群を感じさせるグールドの子供時代を紹介しよう。

グールドの母フローラグリーグ(Grieg 1843-1907、ノルウェーの作曲家)が母親のいとこにあたることを誇りにする声楽教師であり、ピアノ教師でもあった。教会の聖歌隊が縁で10歳年下の父親バートと知り合い1925年に結婚する。二人とも敬虔なプロテスタントで、深く音楽を愛していた。バートは毛皮商を営んでいたが、美声の持ち主でヴァイオリンを弾くこともできた。フローラは、バートとの結婚によりプロの声楽家になることをあきらめる。当時の女性にとって結婚は、主婦に専念することを意味する時代だった。このことが、グールドをプロの音楽家にしたいと考えるきっかけになったかも知れない。

フローラは何度かの流産ののち、1932年40歳で待望の子供グールドに恵まれるのだが、子供がお腹の中にいるときから、歌いながらピアノを弾き、胎児に聞かせていた。この夫婦にとってグールドは「念願の子」であり、一人っ子で甘やかされ過保護に育てられる。

グールドに絶対音感があることをバートが見抜き、フローラは3歳の時にピアノを教え始める。グールドは文字を読むよりも先に、楽譜が読めるようになる。グールドの死後1986年にフランスで催されたグールド展のパンフレットに、バートは赤ん坊のグールドの様子を次のように書いている。「祖母の膝に乗ってピアノに向かえるようになるや、たいていの子供は手全体でいくつものキーを一度に無造作に叩いてしまうものだが、グレンは必ず一つのキーだけを押さえ、出てきた音が完全に聞こえなくなるまで指を離さなかった」音楽の才能は、明らかだった。フローラはピアノで弾くさまざまな和音を、家の離れた場所のグールドに当てさせるというゲームをするのだが、グールドが間違えることはなかった。一方、グールドは、同年齢の子供とまったく遊ばなかった。フローラは音楽を熱心に教えたが、音楽以外の、例えば友達と協調することや我慢することなど、子供に必要なことを上手に教えることができなかった。こうして、グールドは、6歳になった時人間よりずっと動物となかよくできる自分を発見する! 小学校に行く年齢になると、グールドは両親にこう訴える。「6歳の時に両親に言って、なんとか納得させたのは、自分はまれに見る繊細な人間なのだから、同じ年頃の子供たちから受ける粗野な蛮行に曝されるべきではないということでした」その結果、両親は1年弱、自宅で家庭教師を雇う。2年生から仕方なく小学校へ行くようになるのだが、全く教師、同級生と溶け込むことがない。「ぼくは先生たちとほとんどとうまくいかず、生徒のだれとも仲良くすることができなかった。ぼくの性格には児童心理学者のいう集団精神がまったく欠けていたのです」と語っている。ピアノに没頭する、他の子供たちとうまくいかない、ますますピアノに逃避するというサイクルにグールドは入っていた。

他方、グールドは音楽家としての才能は、すぐに母のレベルを追い抜いてしまう。もう、子供へ教えることができないのだ。すると、フローラはしかるべく次の行動に出る。7歳になるとトロント音楽院へ午後通わせるのである。また、グールドの音楽の才能が遥か高みに上ってしまった10歳の時には、高名なチリ人のピアニストのゲレーロに教師を依頼する。ゲレーロは、子供を弟子にとらない主義だったが、グールドの天才をすぐに認め教師になることを承諾する。このときの、教授法が変わっている。グールドの性格を見抜き、教えるのではなく、グールドが正解に気付くようにしむけたのだ。どんどん、正解を見つけ才能を伸ばしていくグールド。

グールドを形作ったのは、明らかにこのゲレーロなのだが、グールドはピアノは独学だったと生涯言い続け、ゲレーロの影響を認めなかった。

おしまい

 

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