written on 02.03.2016
今年の正月が明けてから、好調だった日本の経済、とりわけ株価が変調をきたしている。昨年の暮れに日経平均株価は2万円を超えていたが、今では1万6千円を割る水準にまで下がっている。ただ、今日(3月2日)は、為替が久しぶりに114円の水準にまで円安になり、終値が1万6千500円まで戻している。
この株価の低調な理由は、次のように言われている。 ① 1バレル100ドルを超えていた原油が、30ドル程度までに安くなり、さらにイランの経済封鎖が解かれたため、さらに供給が増えると予想されるが、当面は産油国の減産合意は無理だろうと考えられている。 ② アメリカは、リーマンショック後の景気後退局面からいち早く景気回復宣言し、利上げを昨年末に実施した。だが、実はアメリカの景気回復は非常に弱いもので、今後の引き続く利上げは実現性が薄いと考えられている。 ③ 中国景気の先行き不安が、昨年から明らかになり、中国政府の統計への不信感も相まって、マーケットが疑心暗鬼となっている。
このように、世界の懸念は日本にはない。日本は財政赤字があるものの、世界中の国に比べると不安要素は少ない。これが安全通貨と言われる円が、買われる理由になる。
この状況で生じた日本だけでなく世界同時不況を想起させる年初の円高・株安によりマーケットが日銀に追加緩和を催促し、日銀はマイナス金利という新手を打ち出した。これが従来の量的緩和の手法ではなかったために、日銀は、もう金融緩和に量的緩和カードは使えないとマーケットに判断された。本来であれば、マイナス金利はアメリカの利上げとあいまって、金利差が拡大するので円安へと作用するはずなのだが、為替相場は安全資産の円を買う動きとなり、125円ほどの円安水準から112円ほどの円高水準へと大幅な円高になった。
ところで、日本の株は、残高、日々の売買高とも、半分は外人が握っている。当然ながら、円高になるとドルベースで見た株価は上がる(ポートフォリオが上がる)ので外人は確定売りをし、円表示の株価は下がることになる。
主が、面白いなと思うのは、アナリストの中には2016年の為替は円高を予想していた人がいたことだ。アメリカの量的緩和の終了と金利上げについてはずいぶん前から、イエレンFRB議長が言ってきたことだ。実際には利上げをしていないにも拘わらず、このことが言われただけで、新興国からアメリカへと資金の還流が始まり、新興国では通貨が下落し、景気が低迷した。一番わかりやすいのはブラジル、ロシアだろう。また、この実際の利上げが行われるまでの間に、円の通貨安は十分に織り込まれ、125円に近づくほどの円安になっていた。だが、実際の利上げが起きると、さらに円安が進むのではなく、織り込み済みの円安を離れて、逆の円高になったというのだ。この説明が、長いスパンで見た時に合致しているかどうかは、別問題だと思うものの、さしあたって、現在の状況はうまく説明できているように見える。
目を転じると、アメリカでは大統領選挙の予備選挙が始まっている。さすがにスティグリッツなどがこれまでずっと言い続けてきた99%の貧困(格差問題)が、広く意識されているようだ。民主社会主義者を標榜するサンダースは、明確にこのことを言っているし、ヒラリー、トランプの両候補もTPP反対を唱えたり、外国製品への関税アップ、各国の景気刺激策を為替安競争だと批判したり、内向きな政策を競うようになってきたのが気にかかる。
日本は諸外国と比較すると相対的に競争力はある。もちろん、原油安によりオイルマネーが日本の投資市場から引き上げられ、中国景気がハードランディングし、中東情勢が混迷を続け、EUの景気が上向かないという最悪のシナリオをたどれば、日本だけが好景気というわけにはいかないのはそうだろう。
ここへきて、消費税も来年の増税を延期しようという新聞の紹介記事も見られるようになってきた。いっそのこと、何人かのエコノミストが言うように、消費税率を5%へ戻せばよいのだ。もともと、民主党政権の時期に、野田総理が財務省に丸め込まれて決めた消費増税だ。ご破算にすれば、分かりやすい。
ここで脱線を一つ。大前研一氏は、日本が、個人資産を1600兆円も持ちながら、お金を使わないような社会に変わり、これを「低要望社会」と命名しているようだ。しかし、正しくないように思う。なぜなら、日本の個人資産の多くは、高齢者が所有しており、若年層や勤労者層が多くの資産を持っているわけではない。この貯蓄を多く持たない層は、別に低欲望なのではない。貯蓄が多くなく、買うことができないため、有効需要になりえないだけだ。経済学で言う需要とは、お金に裏打ちされた需要を言いう。お金がない人が家を欲しいと思うのは、これは需要とは言わない。もし、若者にも十分なお金の裏付けを与えれば、低欲望ではなく欲しいものはいっぱいある、というところを見ていないと思える。要するに、年寄りから若者へ無理やり資産を移動させるわけにいかない以上、景気を本来の姿に戻し、賃金水準を上げる地道な時間のかかる道しか方法はない。(下は、大前氏の週刊ポストの記事)
http://www.news-postseven.com/archives/20141225_294042.html
最初に戻って、アベノミクスが失敗したのかどうか、成功するのかどうか。答えがでるのは、これからだ。必要なことは、個人消費が、消費増税の前の水準を超え、給与所得が増え、さらに消費が拡大し、企業が投資を拡大する。さらには第3の矢で日本の構造改革を進め、潜在成長率を上向かせる、こうした流れになるかどうかにかかっている。ただ、外人投資家が今、株価をとおして表明しているのは、第3の矢を信用していないということだ。効果が出ない、時間がかかりすぎだと言っている。そんなことは気にせず、まずは、デフレマインドの払しょくができるかどうかがポイントだろう。