主には、ここ1年以上顔面けいれんの症状があり、頬がぴくぴくするようになった。それほど不便ではないのだが、人と話をしているとぴくぴくとひきつる感があり、何とかならないかと思っていた。症状も進んでいる気がしたので、脳神経・内科、耳鼻咽喉科、神経内科と1年ほどの間に3か所の医者をわたり歩いてきた。
ようやく最後の神経内科で顔面けいれんが診療内容に入っていて、脳のMRIと脳の血管を調べるMRAという2種類の画像診断を受けた。結局、顔面けいれんの原因は分からなかったのだが、この神経内科で「もやもや病」が疑われるので、専門病院で診てもらった方がいいのでは言われた。この時、主はあまりよく考えず、神経内科の医師の説明が丁寧で好印象を持ったこともあり、勧められるままに、MRAの画像(CD-R)と紹介状を持って、地元にある大学病院へ行ってしまった。
最後に行ったのは、大学病院の脳神経外科である。脳神経外科という専門が細分化され、主が初めて行った診療科の40歳くらいのバリバリ壮年の科長(准教授)から『あなたは「もやもや病」だ』と告げられた。この診断や治療方針の説明には20分以上を要し、3分診療に慣らされている身としては、それだけで何か得をしたような気分になる。これまでに1000例以上の手術経験があり、95%は成功する手術だと言う。痛いとかありますかと聞く主に、医師は「子供でも受けているので、安心しなさい。まずはさらに細かいことが分かる検査をしましょう」と精密検査のための検査入院を勧められる。
その検査の目的なのだが、人間の脳の血流というのはさまざまな事態に対応できるよう、かなりの余裕をもっているらしいのだが、正常な人と比べて、その余裕がどの程度失われているのかを調べることによって、手術が必要か経過観察で済むのか判断がつくという。フムフム。
一応、検査入院には同意して自宅へ帰ってきたのだが、「もやもや病」とはどんな病気なのか、ということをネットでざっと調べてみた。脳へ繋がる血管は、下の図の左側のような状態が正常なのだが、もやもや病の患者の場合は、右側のように太い血管が梗塞(詰まり)して機能が弱くなり、その機能を代替する細い血管が、他のルートから「もやもや」と現れて来るらしい。また、頭蓋骨の外側からも血液が供給される代替ルートができたりもするらしいのだが、いずれも本来のルートに比べると血液の供給量が少なかったり、無理しているので出血する可能性、詰まってしまう(虚血)の可能性が高いらしい。このもやもや病は、東アジアに多く、他の地域では少ない。また、子供から幅広い年代に見られ、男性よりも女性が多い。Wikipediaによると、年間発症率が10万人に0.3人から0.5人である。また、難病指定されている。

主は、検査入院3泊と聞いて、夜には隣接する公共施設のジムでトレーニングするかとか、新しい経験ができて気分転換になるだろうとか軽く考えていた。しかし、そう甘くはないようだった。病院に3泊するのだが、ネットの体験記などを読むと検査といいながら大変そうだった。
初日は、血液検査、レントゲン撮影、心電図、呼吸器検査(肺活量の測定)、心臓エコー、再度のMRI、認知症のテストなどを行う。二日目は、「核医学」という聞きなれない名前なのだが、脳血流シンチグラフィー検査というらしく、放射性医薬品を2回注射し、2回目には負荷薬剤を加えて注射し、SPECTという機械で撮影するということだ。血流量を見ることができる。この時、頭部を1時間固定しなければならない。三日目は、股の付け根の大腿動脈からカテーテルを刺して、ヨード造影剤を頭の下あたりから放出して、脳内の血管をX線撮影する。麻酔医がつき、検査後4時間固定。二日目、三日目の検査は合併症(トラブル)があるので、同意書に3枚署名する必要がある。
ところで、主は、前に「大往生をしたけりゃ医療とかかわるな」(中村仁一・幻冬舎新書)を読んで「死ぬなら、だんぜん自然死だよね」と思っていた。健康診断は、60歳を過ぎてからは受けていない。どうもこのポリシーに反する気がしてきた。同時に、主は、「医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法」(近藤誠・アスコム)を読みはじめた。この本は、中村仁一さんの本よりも、さらに過激だ。この本を読んでいると、感染症以外の病気に、医学は無力ではないのかと思えてくる。これまで、日本の医療は世界の最先端を行き、健康保険制度は極めて優れていると思っていたのだが、間違った刷り込みをされてきたようだ。ただ、出版社の名前が怪しい。「アスコム」、初めて聞く名前だ。医学界から総スカンを喰っているに違いない。
この本の中には、検査の造影撮影1回で、福島原発の事故で避難を余儀なくされている地域の放射線被ばく量の1年分くらいを浴びることになり、これが癌の原因になってもおかしくないとあった。そうだよなあ。それに主は、腰痛(脊柱管狭窄・すべり症)があり、四苦八苦している。こんな体を固定しなければならない検査を何度もしたら、ダメージでQOL(生活の質)が下がるに違いない。
そして、2回目の診察時に入院検査を断ったのだが、医師からはせめて1年後にMRIだけでも受けて、その後の変化を見てはどうかと勧められる。だが、こちらは「知らぬが仏ということもありますし」と言った。医師からは、ありがたいことに「じゃあ、具合が悪くなったら、気持ちが変ったら来てください」と言われた。実際のところどうなるか分からないが、主に脳梗塞や脳出血が起こったら、自分で判断して、救急車に乗らないようにしたいと考えている。

おしまい