「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュ 斎藤真理子訳 筑摩書房)を読んだ。
最後に、アマゾンのコピーを貼り付けたので、概要はそちらを見ていただけるとありがたい。以下は主の感想である。
文大統領が登場し、慰安婦問題に加え徴用工賠償の判決が出て以来、冷え込んだ日韓関係は、似た者同士の近親憎悪、内ゲバではないかと思っていたが、韓国は日本とは異なる根深い問題を抱えていると初めて知った。もちろん、日本女性が置かれている立場を考えると、欧米など先進国から比べるとはるかに劣悪だが、韓国はもっと悪いのではないかと感じた。
韓国の大学進学進学率は、男女とも80%を超える。大学に入っても、日本の大学生ように遊び惚けることなく、不景気もあり、良い就職に向けてずっと努力を続けている。父親世代の中高年はリストラを迫られ、若者には良い就職口がほとんどない。法的に男女平等を建前のとする社会だが、実際のところ(儒教社会で)出来ない男たちでも優遇され、家庭でも女である母親、娘たちは、男である父、息子たちを、食べもの、教育などあらゆる面において優遇しないとならない。
女は、社会に出て男より実績を残しても、安い給料しかもらえない。おまけに、年頃の娘が電車に乗れば痴漢に会い、会社では、自分の会社、取引先と昔ながらのセクハラが横行している。会社で、女子トイレの盗撮事件が起こり、その映像を知った男の社員たちは、それを告発することなく、社員同士で映像を共有していたことが発覚する。警察に取り調べを受けた男性社員たちは、女子社員たちの気持ちを考えるどころか、保身だけを考えている。うわべはフェミニストのように見える男は、過去に他の男と付き合った女を「他人が、噛んで捨てたガム」と喩える。息子を生まなかった嫁は、周囲から評価されずに絶望する。育児に疲れた母親が150円のコーヒーを公園で飲んでいたら、近くにいた男のサラリーマンたちに、「夫の給料で暮らして、公園でのんびりコーヒーを飲みやがって!『害虫』が」と罵倒する声が聞こえてくる。
世界中で、#METOOとか言っているときに、日本で#KUTOO(靴が苦痛)といっているようでは、日本は遅れていると思っていたが、女性のおかれている立場というのは、この本が示しているように、程度の差こそあれ、普遍的な問題があるのかもしれない。
アフリカでは、ISISやボコハラムなどが、人さらいしてきた若い女性を兵士と強制結婚させ、中近東では、顔写真をつけた女性をアプリで人身売買をしている。インドでも21世紀と思えないような悲惨なことが起こっているみたいだ。欧米などの先進国などでは、そこまでの虐待や殺人に近いことは少ないのかもしれないが、有名人や金持ちが、少女たちをレイプしている記事に類するものは山のようにある。
180度話が変わってしまう!が、女優の剛力彩芽さんは、前ZOZOTOWNの社長前澤友作さんとごく最近別れたのだが、その破局の原因と思われる、前澤さんが秘書の採用面接にやってきた女性を口説こうとした様子が週刊「文春」に載っていた。こういう生々しい文章が暴露されることは昔ならなかなかなかったはずだが、現代はこういうことが簡単に起こるのですね。
「82年生まれ、キム・ジヨン」は真面目なテーマで、前澤さんの方は笑えないドジな話で、軽々しく比較すべきではないかもしれない。
「82年生まれ、キム・ジヨン」は、社会が男女平等を謳いながら、実は男の都合のいい時にだけに男女平等で、その裏には欺瞞が充満していて、相変わらず女のみが、育児や家事を含めて重労働に明け暮れている。ところが、お金や権力のある前澤友作さんのような男を、非難する資格は男にはない。男全員が、前澤さんのようなお金と権力を持つなら、同じになってしまう性質を持っているからだ。前澤さんを非難可能なのは、女のみだ。
つまり、男女平等といっても、生物学的な差があり、1回の射精で1億匹以上の精子を放出する腕力のある男と、一生に最大産める子供の数が数人のか弱い女性では、遺伝子を残すための戦術が違ってくる。
つまり、現代社会では、イスラムや未開の民族を別にすれば、一夫一婦制が宗教、法律や倫理における最優先の枠組みだ。これとて、キリスト教などの宗教などがルーツであり、人類の歴史から見るとその歴史は浅い。子の成長には10年以上の長い年月が必要で、子を育てる女性は、男の協力か、社会の協力が必須だ。他方、産める子の数に限りがある女性にとっては我が子を殺されることは遺伝子を残する機会を失うことだ。
こうして何人でも子供を作れる男と、そうでない女が平和に共存するには、一夫一婦制が多勢が満足できるという折り合いの意味から、近年の宗教や民主的な倫理観が発達したのだろう。
人類がアフリカで誕生してから700万年。ホモサピエンスが登場して5万年。農耕がはじまったのが、1万年前。宗教や書き言葉が登場したのは、わずか数千年の歴史だ。ほとんどの時代において、一部の有力な豪族や部族が、残りの民の生殺与奪の権利を気ままに握っていたはずだ。今のような、一夫一婦制や女性参政権をはじめとする民主的な社会の成り立ちができたのは、せいぜいここ100年、男女同権に限っては50年ほどだろう。
このため、夫婦の形は、雑婚や一夫多妻婚の時期の方が、一夫一婦制の時期より長いと考えるのが自然だろう。なぜなら、男のなかには、多くの獲物をとってこれない男がいたはずで、女はそうした男の遺伝子を残そうとはせず、獲物をいっぱい取ってくる優秀な男の遺伝子を残したいと思っただろう。また、既に子供を産んだ女性が新しい夫と暮らす社会では、後の夫は往々にして、自分の存在を脅かす前の夫の子を殺すことが起こる。
誰が夫か妻か区別がつかない雑婚の社会では、こうした子殺しを避ける意味から、進化の過程で、女性は排卵の時期を隠すようになったという説がある。つまり、つねに男を受け入れることで、回りの男たちに子供の父親である可能性を残して、子殺しを避けたというのだ。
つまり、動物学的なオスとメスで考えると、あちこちで種をまきたいオスと、優秀なオスの遺伝子を確実に残したいメスが、平和に暮らすためには、宗教や倫理の力を借りて、オスの気ままな欲望を押さえさせる一夫一婦制が、社会全体の成員の福祉を一番大きくすることを考えると一番良い。しかし、人間の歴史の中で、動物のオスの欲望はなかなかコントロールできず、特に現在でも、金持ちや権力者にそれを望むのは難しい。
一方で、女性自身もこれまでの倫理観に囚われず、不倫をするようになったという現実もある。ただし、この小説「82年生まれ、キム・ジヨン」のテーマは重く、男が作った社会の欺瞞がいつになったら消えるのだろうかと主は途方に暮れる。
—-追記:2019/12/30—-
最近、堀江貴文氏のYOUTUBEをよく見ている。その番組の中で、司会者に日韓問題を問われて、彼がコメントをしていた。色々な角度でセンシティブな問題なので注意して発言していたが、面白いことを言っていた。曰く、「韓国は、整形大国なんですけど、他では考えられないくらい『清廉潔白』を求められる国なんですよ。だから、悪いとなったら、徹底的に叩かれる。自分の国で生きていけないくらい叩く。K-POPの歌手が自殺したけど、彼女も韓国で再起できずに、日本で活動しようとしていたんですね。SNSの罵詈雑言なども、凄いらしいみたいですよ。だから、気の弱い人はそれだけで生きていけなくなる。」
主が、この本を読んだときにはそういう風には感じなかったが、たしかに日本以上に韓国社会に「キツさ」があることを感じた。男女とも大学進学率が80%以上あり、大学に入っても真剣に就職に向けて努力し続けるというのは、いくら不景気になったといえ、日本にはないだろう。日本の大学の本質は、プレイランドだ。そう考えると、日本人にもいいところがあるのかもしれない。(ホリエモンは、炯眼なので「日本の座学の教育は、従順な人間を育てるだけで意味がない」とでかい声で言っている!)
慰安婦問題は、朝日新聞がすでに事実無根と謝罪した、でっち上げが大いに影響していると主は思う。徴用工の問題は、日本政府が植民地支配は合法だったとの立場から、賠償名目ではなく経済援助名目で支払いをし、植民地支配を非合法と主張する韓国政府は、不法行為による植民地時代の個人請求権は消滅していないとのロジックらしい。日本政府は、植民地支配が合法だったか非合法だったかにかかわらず、「請求権は解決済み」と請求権協定に書いてあると主張している。朝日新聞は、例によって大衆迎合シンパシー的な記事で左派?進歩派?の読者を掴む記事を書き、韓国は与党・野党とも、国民の結束に都合の良い材料として使っているように見えて仕方がない。
何より、あまり大きな声でテレビでは言わないが、徴用工は、韓国以外にも、北朝鮮や中国に同じ境遇の徴用工が何十万人もおり、日本政府は最初の堤防が壊れることを意味し、何としても譲れない。
バランスをとるつもりはないが、朝日新聞の責任は大きく、「韓国へ行って交渉してこい!」と思う一方で、他の新聞を読む気になるかというとそうはならない。他は日本政府の広報紙に思える。
おしまい
- 《以下、アマゾンのコピー》
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- ひとつの小説が韓国を揺るがす事態に
K-POPアイドルユニットのRed Velvet・アイリーンが「読んだ」と発言しただけで大炎上し、少女時代・スヨンは「読んだ後、何でもないと思っていたことが思い浮かんだ。女性という理由で受けてきた不平等なことが思い出され、急襲を受けた気分だった」(『90年生まれチェ・スヨン』 より)と、BTS・RMは「示唆するところが格別で、印象深かった」(NAVER Vライブ生放送 より)と言及。さらに国会議員が文在寅大統領の就任記念に「女性が平等な夢を見ることができる世界を作ってほしい」とプレゼント。韓国で社会現象にまで発展した一冊は台湾でもベストセラーとなり、ベトナム、アメリカ、カナダ、イギリス、イタリア、フランス、スペインなど18カ国・地域で翻訳決定。
本書はもはや一つの<事件>だ。 - ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかの様子のキム・ジヨン。
誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児……キム・ジヨン(韓国における82年生まれに最も多い名前)の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる。 - 「キム・ジヨン氏に初めて異常な症状が見られたのは九月八日のことである。(……)チョン・デヒョン氏がトーストと牛乳の朝食をとっていると、キム・ジヨン氏が突然ベランダの方に行って窓を開けた。日差しは十分に明るく、まぶしいほどだったったが、窓を開けると冷気が食卓のあたりまで入り込んできた。キム・ジヨン氏は肩を震わせて食卓に戻ってくると、こう言った」(本書p.7 より)
- 「『82年生まれ、キム・ジヨン』は変わった小説だ。一人の患者のカルテという形で展開された、一冊まるごと問題提起の書である。カルテではあるが、処方箋はない。そのことがかえって、読者に強く思考を促す。
小説らしくない小説だともいえる。文芸とジャーナリズムの両方に足をつけている点が特徴だ。きわめてリーダブルな文体、等身大のヒロイン、ごく身近なエピソード。統計数値や歴史的背景の説明が挿入されて副読本のようでもある。」(訳者あとがきより)