黒川東京高検検事長が、週刊文春に麻雀賭博をすっぱ抜かれて辞職した。内閣は、訓告と言う甘い処分で幕引きを図かり、黒川氏の辞任を早々に承認した。

この問題の簡単な経緯とプロセスをおさらいしてみたい。確信はないものの、郷原弁護士が次のように指摘されたのが発端だと思っている。
すなわち、《検察庁法に、検察官の定年が53歳と書かれているのに、黒川氏の誕生日間際に閣議決定で、『余人をもって代えがたい』という理由で、定年を延長した。当然、法律に書かれていることを、閣議決定で変更できるなら何でもありなわけで、手続きそのものが法律違反だ。その不備を国会であれこれ追及され、無理な言い逃れに終始していたのだが、国家公務員法の定年延長の中に、検察庁法の改正を一括りに同時にするように滑り込ませて、結果的に辻褄を合わせようとした。》ということである。
一方、この法案が見送られ、黒川氏の辞任が承認されるまでのプロセスは次のとおりだ。
- 5月上旬 ツイッターで《#検察庁法改正案に反対します》が拡散、その数数百万ともいわれた。主も1票を投じた。
- 5月15日(金) 森法務大臣が国会答弁で、検察幹部の定年延長の基準を問われ、「今示すことはできない」と答弁、基準もないのかよと思った人も多いと思う。
- 5月18日(月) 政府が今国会での改正案の成立を見送りを表明し、世論が政治を動かした勝利と言われる。
- 5月20日(水)週刊文春デジタル版に黒川検事長の麻雀賭博がすっぱ抜かれる。
- 5月21日(木)黒川氏が辞表を首相に提出
- 5月22日(金)訓告処分としたうえで辞職が承認された。
ここで、主が思ったのは、本当にツイッターの声に押され、素直に政府が改正法案を見送ったのか、それとも、文春の記事の掲載を前もって知り、見送ったのか疑問に感じたからだ。 おそらく、後者だろう。水曜日に文春デジタルに掲載されたのだが、週末の日曜あたりにその情報を掴んで、今国会での成立を見送ると表明したのだろう。その方が、正面突破へと進んで週刊誌の記事で玉砕するより、政府の傷は軽いからだ。 そう考えると、素直に世論の声が政府を動かしたと言えず、若干物足りない。
また、文春の記事には、リーク元が産経新聞だと書かれており、ニュースソースを秘匿することが生命線の新聞社は、すぐにこの行為を「ただし、取材源秘匿の原則は守る。取材源、情報源の秘匿は・・・・鉄則である。報道の側からこれを破ることはあってはならない。・・・・鉄則が守られなくては、将来にわたって情報提供者の信用を失うことになる。」と表明している。https://www.sankei.com/column/news/200522/clm2005220003-n1.html
つまり、マスコミは取材先の「懐に飛び込む」と言えば恰好が良いのかもしれないが、要は、ご機嫌を取ってニュースをもらい、気に入られないニュースを書けば、次回以降はないのだ。 産経新聞の誰かが、おそらく、義憤に駆り立てられて文春にリークしたのだろう。しかし、それは禁じ手であり、記者の手元に特ダネがあっても、取材先の弱みを記事にするわけにいかないという意味で、仕事はストレスフル、アンビバレント(矛盾)したもので、なかなか気の毒だなと外野から思う。
と同時に、我々日本人がマスコミから得る情報は、つねにニュースソースの宣伝や意図が入っており、大本営発表の性格を帯びていると心しなければならない。(今回の件で、当然マスコミは「襟を正す」的なことを言うが、自分が書く記事にバイアスがかかっているとは言わない。ズブズブという表現がよく出てくるが、これがそうかもですね。)
ところで、検察、裁判所も法の番人でありながら、政府の検察庁法の超法規的解釈と、似たり寄ったりの解釈をやっている。つまり、モリカケ問題で起訴された籠池氏は、補助金適正化法(この法律には罰則規定がある)違反で起訴されるべきところ、この法律では量刑が軽すぎるとして、詐欺罪が適用され求刑されている。こうなってくると、日本は法治国家なのか怪しく、検察官は大岡越前守だと思っているのでは、と考えてしまう。同調する裁判所も、もちろん同じだ。
おしまい