ゴーン事件・日本の司法取引制度 映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」から

ゴーン逃亡事件は、日産経営陣が社長陣の犯罪を司法取引制度を使って、検察に不正を訴え出たことが発端だ。つまり、西川前社長たちのグループが、日本で認められている「捜査公判協力型」の司法取引を使い、自分たちの罪を軽くしてもらうことと引き換えに、ゴーン社長陣の犯罪の証拠を提供したはずだ。

ところが、この司法取引制度を弁護士事務所のブログは次のように評している。

一方で、ドラマなどによく出てくる「自己負罪型」といわれる、被告の知っている情報を捜査当局に提供することで自分の罪を軽くしてもらう司法取引は、日本の制度では、認められていない。つまり、ゴーンさんの立場からは、西川陣営の不正を知っていたとしても、それで刑を軽くしてもらう手段がない。訴えた西川陣営だけが、刑罰の減免を受けられる。(現に、不正な報酬を手にした西川前社長は、その件について起訴されない)

このような背景があるのだが、ホリエモン(堀江貴文)が日本とアメリカの司法制度の違いを理解するのにスコセッシ監督、ディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」が分かりやすいと、YOUTUBEで勧めていた。

この映画、ウォールストリートでのし上がってきた新興の株式ブローカーを描いており、ディカプリオが主演で、めちゃ面白い。女性まみれ、ドラッグまみれで破天荒なのだが、達者なセールストークで顧客から金を巻き上げ、どんどん成功のステップを登っていく。しかし、最後はお定まりの逮捕劇。被害を捜査していたFBIが、司法取引を使って、部下たちから社長の犯罪の証拠を得る。様々な罪状を足し算するとディカプリオは懲役20年以上になる。一計を案じる主人公のディカプリオ。結局、罪人を一網打尽にし、被害者へお金を戻したいと考えるFBIの勧めに従って、ディカプリオも自分の持っている犯罪の証拠をFBIに提供することを決心する。ただし、本当に仲の良かった一人については、証拠をFBIに渡さなかった。結局、彼も司法取引の恩恵を受け、3年の懲役刑になる。その3年は、仲の良かった仲間を守った代償だった。

というのが、あらすじだ。ゴーン事件と対照すると、日本にもアメリカと同様の「自己負罪型」の司法取引制度があるなら、ゴーンが知っている証拠を検察に提供することで、彼の罪が軽くなる可能性があるはずだと言うことだ。

ホリエモンは、この司法取引に関する制度改正の契機となった、えん罪で刑務所に入った村木厚子さんの郵便不正事件について、「村木さん事件を考えれば、顔を見たこともない係長が、村木さんを主犯にすることで、自分の刑を軽くしようと試みることが想定され、えん罪を生むのではないか」という反対意見を国会の参考人として述べている。しかし結局、原案どおり法律が成立した背景がある。

ちなみに村木さんは、えん罪事件の検察の取り調べの過酷さを「全くの素人である私が、レフェリーもセコンドもいないリングで、取調官と二人きりで闘わせられるようだった」という興味深い表現でされている。

おしまい

 

 

行っちゃったゴーンさん 日本の刑事司法に思うこと

多くの日本人は、「警察に捕まったら人生おしまいだ。二度と立ち上がれない。」と思い、遵法精神に従って生きている。それは、警察権力がいかに乱用されているかうすうす気づいているからだ。

2007年に周防正行監督の映画「それでもボクはやっていない」があった。下は、アマゾンの斉藤博昭さんの映画レビューである。

  • 周防正行監督が10年のブランクを経て完成させ、これまでの作風を一変させた社会派の1作。電車内で痴漢の容疑をかけられた青年が、無実を訴え続けるも、証拠不十分のために起訴されて裁判で闘い続けることになる。監督が痴漢冤罪事件を取材して練り上げた物語だけあって、細部まで綿密にリアルな展開。これまでの裁判映画では描ききれなかったシーンがいくつも登場し、最後まで観る者を惹きつけて離さない作りになっている。
    留置場での日常は、経験していない人には驚きの連続だが、最もショックなのは「疑わしき者は有罪」という警察や裁判所側の姿勢。取り調べでの自白強要はともかく、冷静に判断しそうになった裁判官が急に左遷されてしまうエピソードが強烈だ。被告人の青年役を演じる加瀬亮を中心に、キャスト陣もそれぞれの役を好演。電車内での痴漢に関わらず、ちょっとした運命によって、その後の人生が一変してしまう怖さは、本作を観た人すべてが感じるはずだ。

 

電車で痴漢と指摘されて、線路へ逃げたという報道がよくある。あれは大人しく駅務室へ行き、警官に引き渡されると、ベルトコンベアに載せられたように、被害者の証言が100%採用され、確実に有罪になるからだ。否認すると、やっていないことの立証責任を被告側が負ってしまうのだ。

次は、2005年12月に起こった小学1年生の女児児童の殺害事件で、8年以上経過した2014年に逮捕された勝又拓哉被告(逮捕時32才)である。覚えておられる方も多いだろう。この事件、自白以外ほぼ証拠がないのだが、彼は、地裁と高裁で無期懲役を言い渡されている。(詳細は下のリンクをクリックしてください。)

こちらも、えん罪ではないかと疑う記事がたくさん出てくる。毎日、圧迫する取り調べを長時間すれば、誰でもおかしくなって捜査段階で自供することもあるだろう。まして世間知らずの若者であればなおさらだ。そして、自白すれば、証拠がなくても有罪にしてしまうというのは、裁判の機能ではないだろう。

栃木小1女児殺害で無期懲役判決。事件のあらましとこれまでの裁判

今市事件 法廷にたちこめる「霧」の正体

次は、ゴーン弁護団の高野隆弁護士のブログのことを書きたいと思っている。

おしまい

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