BBC放送『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』ジャニー喜多川氏の罪はなぜ免責されるのか?


この似顔絵は、ジャニー喜多川氏の写真の掲載が許されず、BBCの記者モビーン・アザー氏が書いた。

最初に、ジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏の成功の経緯をざっと振り返ってみる。その後に、BBCのドキュメンタリー放送が提起している問題点について考えてみたい。

● (1)ジャニーズ事務所の成功とジュニアに対するジャニー喜多川氏の性的行為の強要

彼は一代で、ジャニーズ事務所を立ち上げ、所属するタレントたちの多くを成功させた。ジャニーズは一大勢力を作り、日本の芸能界はジャニーズ事務所抜きでは考えられないほどに成長した。メディアに登場する芸能人のうち、ジャニーズ出身者は非常に大きなウエイトを占める。世界の芸能マーケットの大きさで、日本はアメリカに次ぐ第二位と言われ、その男性アイドルを使った手法を生み出したジャニー喜多川氏の功績が非常に大きいのは間違いない。

ところが、彼はジャニーズ事務所を始めたときから、デビュー前のティーンエージャー、それも10代前半の何の性的経験もない少年たちに対する性的虐待がずっと噂されてきた。「合宿所」と呼ばれている自宅や、コンサート先のホテルにジュニアのメンバーが宿泊する際、夜中になるとジャニー氏が夜這いをしかけてきて、そのまま肉体関係を強要するのだという記事を、「週刊文春」が1999年から2000年にかけ10回以上におよぶ追及記事を掲載した。これを不服として。名誉棄損でジャニー氏側が裁判を起こした。

この裁判の控訴審の東京高裁は<喜多川が少年らに対しセクハラ行為をしたとの各証言はこれを信用することができ、喜多川が少年達が逆らえばステージの立ち位置が悪くなったり、デビューできなくなるという抗拒不能な状態にあるのに乗じ、セクハラ行為をしているとの本件記事は、その重要な部分について真実であることの証明があった>と認定した。この判決は上告されたが、最高裁が控訴棄却をしたため高裁の判決が確定している。

ジャニー喜多川氏は、2019年6月すでにに死亡した。経営は姉の藤島メリー泰子氏(代表取締役会長)、その娘の藤島ジュリー景子氏へと経営の実権を引き継ぎ、経営の上層部には、ジャニーズ出身である滝沢秀明副社長(40)が就任したものの退陣し、井ノ原快彦氏(46)へ変わるなどゴタゴタが続いている。

この間、「週刊文春」がこの問題を取り上げたが、日本のテレビや新聞社は後追い報道をしなかった。その傾向は、裁判でジャニー喜多川氏のセクハラ行為が認定された後も、「公然の秘密」だったが、報道されなかった。こうした強いものに対する《忖度》の姿勢は、日本のマスコミの根本的な体質と言われても仕方がないだろう。

● (2)BBCの放送

2023年3月7日、BBCのドキュメンタリー『捕食者(Predator):Jポップの隠れたスキャンダル』が、ジャニー喜多川氏の少年に対するレイプ、性的虐待を、英国で放送した。

プレデター(Predator)が『捕食者』と訳されているので、意味をパッと掴みにくいのだが、このプレデター(Predator)は、『弱みに付け込んで他人を利用する人』とか、『性的に人を食い物にするやつ』というような意味であり、今回のケースは、『少年を対象にした性的倒錯者』というのがストレートでわかりやすいと思う。

かなり大きな反響が、この報道で、日本のYOUTUBEなどで引き起こしている。しかし、放送権の問題があるらしく《全編》をただで見ることができないが、アマゾンプライムで見ることができる。 《要約》が、YOUTUBEに何種類も上がっているので、こちらは簡単に見ることができる。《要約》にも、《全編》から切り取った被害者や街頭インタビューなどが流れるのでだいたい正確にわかる。

https://www.newsweekjapan.jp/joyce/2023/03/bbc-1.php ☜「BBCのジャニー喜多川「性加害」報道が問う、エンタメ界の闇と日本の沈黙」

担当したBBCの記者は、モビーン・アザーである。下がモビーン・アザー氏。彼のTWITTERである。

この番組でモビーン・アザー氏が問いかけたのは、次のことだ。 ジャニー喜多川氏の性的虐待は何十年も前からあった《公然の秘密》であり、名誉棄損(民事)裁判も行われて、被害者や目撃者も証言して、性的虐待の事実があったことが裁判で確定していると説明する。それなのに彼が刑事責任を全てを免れ、非難されることもなく、死後数年がたつ今でも、芸能界の貢献者として崇拝されているのは一体どういうわけか、また、日本のマスコミは口をつぐみ、まったく報道しないのは何故かという点だった。そこには、日本人の性質にどのような欧米人と違ったものがあるのかというような切り口である。

このような青少年に対する大規模なレイプ事件は、日本だけではない。ローマカトリック教会の最高の地位にある聖職者たちが、少年少女を対象に性的虐待を行ったことが、明らかになっており、ジェイソン・モーガンさんが「バチカンの狂気」で詳しく書かれている。

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-47315445 ☜ 「カトリック教会の性的虐待スキャンダル、法王はどうする バチカンで会議始まる」という記事のリンク

アメリカでも、2017年にハリウッドの大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインが、過去数十年にわたって弱い立場にある女性たちに対して性加害を行なっていたことが告発され、逮捕され、実刑判決が下された。

https://front-row.jp/_ct/17445837  ☜ 「女性俳優たちを襲う「枕営業」強要の闇、勲章を受けた大御所の告発すら否定される」フロントローの記事のリンク 

しかし、こちらは、当然ながら日本のマスコミもまともに報道した。

ところが、このジャニー喜多川氏による少年のレイプ事件は、日本の新聞、テレビ、ごく一部の週刊誌を除きまったく報道されていない。

2023年3月7日に放送されたこの番組で、BBC記者モビーン・アザー氏が被害者にインタビューすると、「(もちろんされたことは、正しい事ではないと思っているが)今でも、ジャニーさんのことを好きですよ。お世話になったし、愛情を持っている。」と被害者は一様に答える。

次に街頭を行く人にインタビューすると、その人たちもやはり口を揃えて、「誰もが知っているけど、さほど悪い事じゃない。」、「追及することじゃない。」、「有名になるのが一番の夢で、『枕営業』は仕方ない。」といった反応を示す。

モビーン・アザー氏の問題意識は、「日本でジャニー喜多川氏の性的虐待は公然の秘密であり、それを取り巻く沈黙もまた恐ろしい。」、「インタビューを受けた人に失礼だが、彼らの言うことを理解できない。」「日本に正義を求める動きはまったく見られない。」「日本には問題に取り組む気がないのだろ。」という。 同時に、彼は日本人のこれら反応が、「予想外」であり、「落ち込んだ」ともいう。

都心に大きなビルが聳え立っているのを見ながら、「これは日本社会が見て見ぬふりをしている結果だ。今回、警察をはじめとして芸能リポーターや音楽プロデューサー、新聞、テレビ局にも取材を依頼したが、すべて拒否された。ジャニー喜多川氏は他界してもなお守られている。」(2019年のお別れ会では国民的英雄として首相から弔電が送られている。)「そして子供を守る必要性は十分に認知されていない。それが何よりも残念なことだ。」

こうした指摘に加えて、グルーミング[1]を指摘する。グルーミングとは、弱い立場にある年齢のいかない少年少女を性的に支配する際、支配する側が、支配される側をそうした行為が精神的に悪いことではないと思わせて支配を続けることを言う。それが今回の事件でもあると指摘する。

● (3)結論

このようにBBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』は、異常な性的犯罪がなぜ日本で見過ごされているのか、日本人のメンタリティーを問う方にウエイトがある。

親爺が思うのは、まったくBBC記者モビーン・アザー氏の言うとおりだと思う。

日本に正義や公正があるのか怪しい。特にマスコミは《報道しない自由》を発揮し、重大で肝心なことを報道せず、どうでもよい芸能人や政治家の不倫報道などやりまくる。そこらじゅうで、力のあるものに《忖度》し、それでも平気のへいざ(「平気の平左衛門」)を決め込んで情けないと思っている。

ただ、一方で、欧米の価値観である《自由》《平等》《民主主義》などが、本当に普遍的なものかどうかという点については、怪しいと親爺は感じている。むしろ、明治以前の日本にある考え方の方が普遍的ではないかと思ったりする。

それら両方を考えても、やはり《今の日本》はおかしい。ジャニー喜多川氏が、刑事責任を追及されなかったのもおかしいし、テレビや新聞社が、影響力の大きさにひるんで報道しないというのは、マスコミの責任や矜持を放棄しているのに等しい。また、日本人全体で見たとき、ジャニー喜多川氏の行為が《公然の秘密》と言いながら、多くのスターを育てた功績の前に、性的虐待が《仕方ない》と街頭インタビューで語るのも、世界的に見れば、異常だというのはよくわかる。海外の目からすれば、「日本人全員が、狂っている。」と見えるだろう。

長いものに巻かれて、それを良しとする国民性ということになると思うが、つまり《負け犬根性》が染みついているということだと思う。

おしまい

[1] グルーミングとは、もともと「(動物の)毛づくろい」という意味だが、性犯罪の文脈においては、子どもへの性的虐待を行おうとする者が、被害者となりうる人物に近づき、親しくなって信頼を得る行為をさす。チャイルドグルーミングとも呼ばれる。グルーミングは、加害者が被害者に性的虐待に同意するよう強要し、逮捕される危険を減らすために用いられる。幼い子どもに対して最も多く用いられるが、10代の若者や、大人も同様な危険に晒されることがある。家族や親しい友人、コミュニティのリーダーなど、被害者と自然に接することのできる関係のある人物がグルーミングの加害者となり得る。https://ideasforgood.jp/glossary/grooming/

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