昨年から順次、生誕40年、没後90年を迎えたグレン・グールドのリマスターされた録音物が発売されており、SACD規格によるバッハ全集も発売された。
詳しいことは次のTowerRecordの記事を見てください。
https://tower.jp/article/feature_item/2022/10/03/1110
SACD規格というのを簡単に説明すると、これは現段階でもっとも音質が良いとされるハイレゾの規格の一つである。ハイレゾには、CDの録音規格を高規格化したPCM録音という方式と、変調方式の違うDSDがあるのだが、SACDはDSD方式とほぼ同一と言われる。インターネット販売ではどちらも販売されている。
ただし、SACDをこのようなリアルな媒体で買うと、CDのようにコピーすることが出来ない。また、SACDを再生できるプレーヤーが必要である。今回発売されたメディアはハイブリッド盤なので、CD再生機でも再生できるが、CDレベルの音質でしか再生できない。CD再生専用機を使用するのであれば、CD向けにもリマスターされた規格のものが売られているのでそちらを買えばよい。
今回の全集に含まれるバッハ作品のうち、《平均律クラヴィーア曲集》、《インベンションとシンフォニア》、《パルティータ集》、《イギリス組曲》、《フランス組曲》もこの全集に含まれているのだが、これらはSACDで従来から販売されていた。
今回新たにSACD規格で発売されたのは、《1955年録音のゴルトベルク変奏曲》、《フーガの技法(オルガンとピアノ)》、《ヴァイオリンソナタ集》、《チェロソナタ集》、《ピアノ協奏曲集》、それにCBCテレビ局音源、ソ連公演、ザルツブルク音楽祭のリマスターなどである。
グールド・オタクに有難いと思えるのは、ブックレットが充実しており、ライナーノートが日本語でそのまま読めたり、グールド研究の第一人者である宮澤淳一さんの解説だったり翻訳を読める。また、ミヒャエル・ステーゲマンのしっかりした解説も読める。また、ジョン・マックルーアとティム・ペイジの対談CDが含まれているのだが、こちらも完全な日本語訳がついている。至れり尽くせりです。
特に親爺が有難たいと思ったのは、リマスターされていなかったピアノ版の《フーガの技法》が初めてSACD規格でリマスターされたことである。親爺は、この曲が一番好きで、この《14番の未完のフーガ》をしょっちゅう聴いている。
この未完のフーガについて、グールドが映像作家のブリュノ・モンサンジョンに次のように語ったとブックレットにある。
- 「あの未完のフーガは確かに情にも訴える。何しろバッハの絶筆だし[・・・]しかし本当の魅力は平穏さと敬虔さ。本人も圧倒されたはず。このフーガに限らず曲集全体に言えるのは、バッハが当時の音楽の流行全てに背を向けていたことだ。彼の晩年、フーガは流行らなくなっていた。[・・・]フーガでなくメヌエットの時代なのにバッハはきわめて意識的に自分の和声のスタイル変え[・・・]別の地平に達していた。バッハは100年以上さかのぼり、対位法や調性の処理法を借用した。バロック初期の北ドイツやフランドルの作曲家のもので、調性を使いながら鮮やかな色彩を避け、代わりに薄い色合いが無限に続く。私は灰色が好きだ。シュヴァイツァーがいいことを言っている。『静寂で厳粛な世界、荒涼とした色も光も動きもない世界』と」
- 未完のフーガの最後の音を弾いた瞬間、グールドは感電したように左手をさっと持ち上げる。映像は静止し、腕は宙で凍りつく ー 「あらゆる音楽の中でこれほど美しい音楽はない。」この未完のフーガを弾くグールドの姿を見た者は、この瞬間の映像を決して忘れることができない。(訳:宮澤淳一)
追加情報なのだが、3月26日(日)にタワレコで宮澤淳一さんによるこのSACD発売トークイベントがあります。まだ間に合います。駆けつけましょう。
https://tower.jp/article/campaign/2023/03/23/02