上げるのか上げないのか 消費税

written on 2014年11月12日

「消費税を上げるのは既定路線だ」いう感じだったマスコミの報道が、1週間ほど前から「上げるべきではないとの声がある」と両方の意見を言うようになってきた。

そして、急に「阿部首相が、来年10月の消費税アップはしないという判断をして、衆議院を解散する」という声が数日前から出てきた。最初に言い出したのは「週刊文春」のようだ。

中国にいる首相がインタビューで質問を受けた際にも「解散についてコメントしたことはない」と言ったが、「解散しない」とは言わなかったことで、その報道は急激に大きくなった。

各報道機関がこれだけこぞって言うのだから、実際に消費税上げを見送って、解散になるのだろう。主のブログでも消費税を今上げるのは間違った判断だと書いた。安倍首相は「嗅覚が優れている」といった知人がいるが、そのとおりだと思う。財務省の宣伝に踊らされ、自分の頭で考えない人たちの多さを考えると違いは際立つ。

先日、アメリカが金融緩和を止めると発表した翌日(前からすでにアメリカの金融引き締めは知られていたので、誰も驚かなかった)日銀がサプライズの追加金融緩和を発表し、円安が進行、株価が急上昇した。

ただ、円安、株価の上昇は長期的には日本の経済には望ましいのだが、短期的な円安は、消費者や一般の人にとっては所得が増えない段階において、購買力の低下を招くため、NHKなどマスコミはむしろマイナス面を強調した。

今日(11月12日)の株価の動きは、興味深かった。「阿部首相は消費税を上げないで解散する」という発言と「消費税を上げない選択はあり得ない」を言う発言を、立場の違う代議士たちが発言するたび株価が上下した。もちろん消費税上げを見送るという有力者の発言があると株価が上がり、消費税は上がるという発言があると下がったのだ。

このようにたちどころに上下するのは外国のファンドが多額のマネーを日本株につぎ込んだり引き上げたりすることが理由だろう。この株価の動きを見ていると、首相が実際に消費税を上げないと決断すれば株価がさらに上がることが見えてくる。

もちろん、そうした資産効果は一般の消費者に恩恵が直ちに行くものではないし、しばらくは我慢をする時間は必要だろう。もし民主党が言うように「アベノミクスは間違っており、今の金融政策をやめる」とすると、不況を脱することができず、庶民は苦しむだけだ。今の不況を抜け出す道はアベノミクス以外にない。

話は別だが、代議士たちの戦(選挙)好きは傍目に興味深い。彼らは国民のことを考えているということより、勢力争いが好きなだけのように映る。

 

この経済状況で消費税を上げようというのは間違った判断だ

アベノミクスが始まって約2年、この経済政策は成果が上がっているといって良いだろう。長年のデフレから抜け出せるかもしれない。アベノミクスのブレーンは、政府で参与をされている浜田宏一氏だ。この先生は、アメリカのコロンビア大学で研究し、金融論(マネタリスト)の分野で最先端を行く研究者だ。

民主党と政権を争った2012年末、安倍晋三が「輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」(2012年11月20日朝日新聞)と発言した。主はこの発言を知ったとき、裏にはきっとブレーンがいると感じ、何十年も読んでいない経済学書を改めて読みたいと思った。わかってきたことは、日本の経済学者は世界の先端理論からすでに取り残されており、数学的に考えない昔ながらの観念論主体、旧態依然とした御用学者の集まりになっているということだ。世界の経済学は、ノーベル賞も受賞したクルーグマンやスティグリッツなどアメリカの経済学者が先頭を走っていた。(もちろん、彼らも日本同様、アメリカでもいつまでたっても過ちを認めようとしない学者たちの存在に苛立っている)

クルーグマンは10年以上前に、ちょっと難しい表現だが「日本は『流動性の罠』に嵌っている」といい、その処方箋を述べていた。「流動性の罠」と言うのは、不況の時に政府は景気刺激策として金利を徐々に下げていくのだが、金利は当たり前のことながらゼロ以下にすることができない。日本はその時デフレだったのだが、デフレ下では金利がゼロでも、実質的に手持ちの現金の価値は上昇していくことになる。そのような状態では、お金を使うより、時間が経てば価値を増していく手元の現金を持っている方が有利な判断となる。そのような時(『流動性の罠』の状態)には、通貨の供給量を増やせと言ったのだ。そうすることにより、供給量が増えた通貨のために通貨安(円安)になり、日本の産業が国際競争力を回復し、緩やかなインフレ(インフレ期待)により負のスパイラルから抜け出せるというものだ。

反対論者は、この方法はハイパーインフレが起こり、国債は暴落、金利が急上昇するといって警告することが常である。しかし、こんなことは起こらない。太平洋戦争の時にそうなったからといって、現在の状況は全く違う。通貨供給量も金利も政府が決定することができるのだ。

やがて、浜田宏一氏を知ることになった。安倍首相のブレーンとして金融の量的緩を主張した人物である。日本銀行総裁候補にも上がったが、高齢を理由に固辞された。この浜田氏が、今年4月の消費増税の時に、当然ながら反対論を唱えられていた。消費増税は「風邪で熱のある選手に、体を鍛えるために運動場を走ってこいと言うようなものだ」と主張していた。一方、先のクルーグマンは、もし景気にマイナスの影響を与えず増税したというのであれば、毎年1%ずつ上げる方法もあるともいっていた。しかし、世論は1%ずつ上げるのは技術的に困難といい、税率は5%から8%にあげられた。そして、現在の状況は、今年3月末の駆け込み需要の前の状態に戻らず、あきらかに増税の悪影響が出ている。しかし、マスコミは消費増税だけではなく、夏の気候不順を理由にしたりする始末だ。

この停滞状況で谷垣副総裁をはじめ多くの人が、来年の消費増税の容認発言を始めている。彼らの主張は「日本が増税しないことは、財政再建をしようとしない姿勢であり世界から信用を失う」「求められる社会福祉が実行できなくなる」というものだが、これらはほとんど脅しであり、既得権益を持つ財務省の刷り込み、マスコミの間違ったプロパガンダだ。政府の借金を、家計や企業の赤字と同じように例えるのは間違っている。財政再建は景気が回復してからじっくり取り組めばよいのだ。景気が回復すれば、税収の自然増(実際に2013年度は自然増がかなりあった)があり、緩やかなインフレが起これば過去の借金はその分軽くなるのだから。 過去20年の不況を考えれば、日本政府、日銀は景気を冷やす方法ならいくらでも知っている。(これは皮肉です)

主の政治観(中国、韓国、アメリカ、日本)

政治への批評は、個人的なブログに書いてもたいした意味がなく、読者の気分を害することがあるだろう。だが、世の中はミスリーディングな言い回しに溢れている(と思っている)。ついては、個人的な意見を述べてみたい。興味のある人に読んでいただければ幸いだ。

【中国について】

日中の最大の問題はやはり、外交問題だろう。尖閣諸島の領土問題などは、経済成長でGDPが世界第2位になるほど成長した最近の出来事だ。経済成長を果たす前、中国は地域の主権の主張をしていなかった。近年の覇権主義をきっかけに、資源の賦存量の大きさから主権を主張するようになった。南沙諸島でも似たようなことがベトナムとの間でも起こっているようだ。 「中国人には個人のレベルでは善い人が大勢いるのだが、共産党が前面に出てくると様相が変わってくる」という話をよく耳にする。 チベットの少数民族に対しても、共産党は愛国主義を醸成するためといいながら、弾圧する。自衛隊機への異常接近やベトナム艦船との衝突でも、自分の非は全く認めようとしない。このような国に対しては、日本の正当性を面倒がらずにずっと主張し続けることが必要だ。

戦後50年を機に戦争責任を認めた村山談話を日本政府は表明したが、このような表明は過去を清算するどころか逆に火に油を注ぐような事態を招いている。日本のマスコミにも進歩派を自認し、南京大虐殺などを大きく取り上げる新聞があるが、どれほど本当のことだったのか。これまでの中途半端な平和主義、自虐的な左派の歴史観が招いた結果のように思えて仕方がない。

日本国内の歴史観には、対立するさまざまな見方が存在している。しかし今となっては、敗戦国のバイアスがない客観的な歴史観の獲得と発信を、地道にやるより仕方がないのではと思う。つまり、敗戦後の日本の思想史においては、勝戦国アメリカが推し進めた民主思想や戦争遂行の全否定をベースにした左派思想がある。それらは当然評価すべきだが、行き過ぎた面があり、事実ではないこと、誇大に言われていることが多いのではないかと思う。当時の歴史において、日本だけが特殊な行動をとってはいないと思う。(ドイツのホロコーストとは違うと思う。)

【韓国について】

韓国では大勢の高校生が乗った船が沈没するという痛ましい事故が起こった。しかし、背景に監督官庁と民間企業の癒着があり、同種の事故が何度起こっても一向に改善されないことに対し国民の怒りが向けられているようだ。財閥系企業のサムスンやLG、現代などが好調で、韓国経済が一見好調のように思われがちだが、利益はこれらの企業に出資する欧米企業が享受し、韓国国民には恩恵がさほど行っていないと言われる。こうした中で、韓国民は苦悩しているように見えるが、人口が少なく市場規模が小さいため、輸出に依存せざるを得ないという事情があるようにも思う。 慰安婦問題などでは、日本政府は過去に河野談話を発表しているが、こちらも中国同様、このことが足をすくわれる結果をもたらしたように思う。談話発表の背景にある日本政府の韓国政府に対する配慮が逆手に取られ、誇張され過ぎているのではないか。

外交で、安易に謝罪するというやり方が如何にまずいかということを示していると思う。相手国から非難され続けて、それにこたえる形で反省を口にすると、今度はそれを口実にされさらに非難がエスカレートするという構図だ。

【アメリカについて】

アメリカはブッシュ大統領の時代にアフガン侵攻、イラク戦争を行い、世界の警察を標榜していた。オバマ大統領になり、この方向性が変わるかと期待したが、根っこのところは変わらないようだ。民主党も共和党におとらず根っこのところは、一部の金持ちを優遇するようだ。ただし、アメリカのどの政権も表面上金持ち優遇とは言わず、自由競争、グローバリズムを旗印にして公平を装っている。

アメリカの経済状況は、独占禁止法を緩めたり、金融分野の自由化すら進めた結果、過去30年間にわたり富は1%の金持ちに集中し、99%は貧しくなっている。こうしてアメリカンドリームなど全くない状況になっているのに、国民は多くはいまだにアメリカンドリームを信じている。上手く金持ちの宣伝に乗せられているのだ。レーガン政権以降にはトリクルダウン(trickle down)という、金持ちがさらに金持ちになることでその下の大衆は、水がこぼれてくるおこぼれ(トリクルダウン)にあずかるということが真面目に言われていたくらいだ。

ウクライナ危機だが、アメリカをはじめとする西側諸国はロシアを非難している。しかし、これはロシアにしてみれば、西側の勢力をバックにしたクーデターと映っており、180度とらえ方が違っている。ただ、西側が結束してロシアを非難すればするほど、孤立するロシアは中国と接近する。これは世界を分断し、経済のためによくないのは明らかだ。

【日本について】

日本は、経済の立て直しが間に合うかどうかが最大のポイントだ。高齢化、人口減少、20年間続いたたデフレ。これらで特に地方は壊滅的な状況にある。地方に限らず、弱者ほど過去にない厳しい状況にある。東京に住み、貯えもあり、安定した職業についているとデフレは困らないのだが、地方在住、非正規社員、シングルマザー、就職できない若年層、貧困のサイクルに取り込まれた者にとってデフレは、賃金低下による地獄だ。アベノミクスで回復の兆しが少し見えるが、財務省、マスコミ、御用経済学者は、相変わらず財政赤字への警鐘を国民に発信し続けている。財政赤字の解消は、景気が回復してから考えればよいのだ。景気回復が先、財政赤字はその後に解消すればよい。赤字のレベルも一定の水準まで下げれば、必ずしも解消しなくともよいのだ。政府の赤字と家計の赤字は意味が違う。

この経済の立ち直りには、なんといっても円安が重要だ。相対的に世界を見ると、今のところ、日本の状況は悪くない。(日本の財政赤字の債務残高は、円建てで日本国内で大半が消化されており、財務省が言うほどマーケットは不安視していない。)このため、ヨーロッパの通貨危機、中国経済の減速、ウクライナ危機などの不安材料が生じるたび、円は買われ、円高になる傾向がある。黒田日銀は登場の時に、「異次元の金融緩和」を行ったが、その後はまったく音沙汰がない。幸い、今のところ消費増税の落ち込みを乗り越えられそうであるが、105円まで下がった円は、現在101円台にまで上昇し、それに伴って株価も上昇できないでいる。製造業の一部には、アベノミクスの円安により生産拠点を日本に戻す動きがあるという。こうしたトレンドを定着させるためには、今以上の円安になることが望ましい。リーマンショックの前の水準は120円ほどだったはずだ。このくらいの水準になると、日本の競争力は十分に余裕をもって発揮できる。

中韓との外交は先に述べたとおりだが、安倍首相はウクライナ危機の前、ロシアのプーチン大統領とは良好な関係を築き、北方領土の返還がまとまるかも知れないというところまで来ていた。だがこの危機で踏み絵を踏まされ、早々にアメリカなど西側諸国に同調し、ロシアを非難する側に回ってしまった。アメリカは、中韓、北朝鮮などとの外交に必要なパートナーであることは確かだが、日本が常に尻尾を振ってアメリカについていく必要があるのかは考えるべきだろう。もっと、中間的なポジションをとれなかったのだろうか。TPP交渉ではオバマ大統領が訪日する中、日米が最後まで譲らず決裂したが、この交渉は見ごたえがあった。この交渉のようにアメリカ追従ではなく、日本の国益を重視しロシアと協調、北方諸島の返還と天然ガスの輸入を勝ち取ってほしかった。

また、民主党政権の前の第1次安倍政権でホワイトカラーエグゼンプションという制度を導入しようとしていた。ホワイトカラーエグゼンプションというのは、労働の対価を、時間ではなく成果で測ろうとするもので、「成果を出せば会社に来なくていいですよ。ただし、逆に時間がいくらかかろうとも残業代は払いませんよ。」というものだ。この第1次安倍内閣の時にこの案は世間から総スカンを受けたのだが、これを再びテーブルに乗せようとしている。やはり、労働コストを下げたい財界などの圧力があるのだろう。このままではいただけない。

 

「こけろ! アベノミクス」と陰の合唱

今回は、ちょっと硬い話をなるべく柔らかく語りたい。

日経新聞は、株価が少し下がると相変わらず日本の産業力の低下を憂いて見せる。円高によって日本株で利益を出した海外の投資家が、ポートフォリオを一定に保つために売っているとは決して言わない。(「日経新聞の真実」のトピックがカテゴリー『経済学』にあるので興味のある人は見てね。) ヒステリックとも言えるほど、啓蒙主義的で、常に読者に警告を発しようとする。アベノミクスの成功で、20%以上円安になり株価は大幅に上昇、企業収益も改善、その果実を労働者にも分配する傾向が見え始めてきた。日本の産業構造は、昔のように輸出一辺倒ではないが、依然として輸出産業のウエイトが高く、円安は有利に働く。現在の為替レートは102円/ドル程度。民主党政権時の80円/ドルに比べると大幅な改善だが、バブル崩壊時以降は120円/ドルの水準が長く続いた。それを考えると、まだ昔の円安水準にまで戻っているわけではない。(なお、経済オンチの人のために付け加える。1ドル80円が1ドル100円になったら、円高になったと思う人が結構いる。しかし、表現を変えると1円あたり0.0125ドル/だったものが1円あたり0.0100ドルになったということで、値打ちが下がっているので、円安だ。)

安倍政権の発足に伴う黒田日銀総裁の「異次元の量的緩和」により、円安と株高が同時に起こりデフレ脱却の希望が見えてきた。しかし、世界を見るとリーマンショック後、ヨーロッパの通貨危機、中国経済の減速、アメリカの金融引締めを発端にする新興国不安、現在はクリミア半島の欧米・ロシアの対立が起こっている。こうした要因は円安の阻害要因であり、円高の原因である。(信頼を失った国の通貨は売られ、信用のある国の通貨が買われる。)アメリカの金融引き締め(量的緩和の中止)は、ドル安政策の転換を意味し、本来であれば相対的に円の価値を下げ、円安になるはずだ。だが、実際にはアメリカの新興国への投資資金が引き上げられ、新興国経済が失速するという懸念から新興国で通貨安が起こった。日本はそうした不安材料が少ないために、相対的に安心感があり円は上昇傾向になる。もちろん、日本は財政赤字という大きな問題を抱えているが、世界から致命的な問題と見られていない。

アベノミクスの最大のブレーンのイエール大学教授浜田宏一は「アメリカは日本経済の復活を知っている」の中で、白川日銀前総裁とそれまでの金融政策を激しく非難した。この浜田の提唱する政策を掲げた安倍政権が経済政策の転換を行った。日本の「失われた20年」と言われるデフレから脱出できるかどうか、ようやくこの成果が出るかどうか期待されるところだ。浜田の書名のとおり、日本経済の底固さは世界中が思っていることなのだ。

第二次大戦後、経済学の主流は新古典派と言われる学派だった。この新古典派はケインズの理論を発展させ、「合理的経済人」を仮定する。すなわち、人間は合理的で常に正しい決断が出来ることを前提にすれば、市場を通じて資源が最適配分されると考える。その後ミルトン・フリードマンが「選択の自由」を発表し、大きな影響を与える。マネタリストであるフリードマンは財政支出に反対(=ケインズ経済学の否定。公共事業の否定。)し、景気循環を貨幣供給量と利子率により説明した。彼は同時に「小さな政府」を提唱したため、レーガン、父ブッシュ、クリントン、子ブッシュ、オバマ大統領とアメリカの経済政策に大きな影響を与える。すなわち、国内向けには減税、規制改革、民営化、対外的にはグローバリズム宣伝の根拠となる。

しかし、2001年、スティグリッツが「情報の非対称性」によりノーベル経済学賞を受賞する。「情報の非対称性」と言うのは、需要者と供給者で情報が非対称であること、例えば学生ローンを借りる学生は銀行ほどの情報量を持っていないことを言う。そのような状態で資源が最適に配分されないことを証明した。この学生ローンの場合は、社会全体でゼロサムではなくマイナスサムが生じているという。スティグリッツの著作には「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」もある。 2008年、クルーグマンが次のことを証明しノーベル経済学賞を受賞する。生産規模が拡大するほど費用が低下する「収穫逓増」の産業は、歴史的な偶然によって国際競争力が決まることをモデルで説明した。例えば米国の航空機産業は、ベトナム戦争に伴う生産拡大で競争力が高まったという。(従来の経済学は「収穫逓減」を謳っていた。)

この二人の研究は新古典派の学者の経済理論を葬り、フリードマンの市場至上主義の誤りを指摘したはずだ。「勝者総取り」という現代最大の問題が透けて見えてくる。「勝者総取り」は、主の最大の問題意識である。)しかし、スティグリッツやクルーグマンも書いているが、旧来の経済学者はなかなか自分の非を認めようとしない。それは日本も同じだ。

日本の書店に並んでいる経済学の書籍は、浜田宏一をはじめとする金融政策によるリフレ派(インフレターゲットを設定し、デフレから脱出しようとするグループ)はマイノリティーだ。相変わらず新古典派経済学者やフリードマンを崇拝する学者が主流だ。当然ながら、従来型の学者はアベノミクスの金融政策について国債の暴落と金利の上昇を声高に警告し、財政健全化を至上命題にしている。決して、日本の財政赤字はお札を輪転機で刷れば解消するというようなことは言わない。

1年前の消費税引き上げ論議を思い出してほしい。浜田宏一はじめとするリフレ派は消費税増税に反対だった。デフレから脱却できるかどうかという大事な時期の消費税増税は、「風邪をひいている患者に、体力をつけるために『グラウンドを走ってこい!』と言うようなものだ。」と時期尚早を説いていた。しかし、財務省の「財政再建」宣伝が行き届いているため、世論は「消費税増税せよ!」の大合唱だった。野田前首相は財務官僚に完全に丸め込まれた。 前述のクルーグマンは、日本がどうしても消費税を上げたいという場合でも、経済への影響を最小にするためには、消費税を毎年1%づつ上げたらよいと発言していた。ところが、この案は技術的に困難であると一蹴されてしまう。その結果、5%から8%、10%へと上がることが決まる。(おかげで今、駆け込み需要の後の反動が心配されている。そやから1%ずつ上げ言うたやろ!)ここに日本人の性癖がよく表れている。事の本質より、小銭の扱いが面倒とか煩わしいという枝葉末節を優先する発想が出てくる。景気への影響より、技術論が優先したのだ。もっとひどいことには、増税により景気が良くなると真面目に主張した経済学者もいた。かくして、マスコミをはじめとする消費増税キャンペーンは奏功する。 安倍首相は、世論とブレーンであるリフレ派の板挟みとなり、消費税増税を決定するが、経済の落ち込み分を財政支出で補うという折衷案を採用する。

ところが、マスコミや御用学者たちは消費増税が昨年秋に決定したとたん、発言内容が180度転換し、消費の冷え込みによる不況の懸念を声高に言い始める。常に世間に向かって危機を煽っている。(そんなことを言うなら、最初に消費税を増税すべきだと言うべきでないだろう。)

主の学生時代(40年前)、経済学の講義で一番最初に教わったのは「賃金の下方硬直性」だった。「賃金の下方硬直性」というのは賃金が生産性の向上に関係なく、上がることはあっても下がりにくいことを言う。しかし、日本はバブル崩壊後、ずっと名目賃金が下がり続けた。企業は収益の落ち込みに対して、生産性を上げることより費用を小さくすること、すなわちリストラや賃下げを競って行った。

ここで、名目賃金の解説を少ししよう。もしインフレ下で賃金水準が同じ場合、インフレ分だけ実質賃金は下がっている。逆に、デフレの場合、実質賃金は上がることになる。このため日本のデフレを、まことしやかに「良いデフレ」と言った学者がいたほどだ。同時に為替レートのことも考慮する必要がある。名目賃金が同じでも、円高になるとドルで換算した賃金は増加することになる。すなわち、民主党政権では急激な円高が起こったが、ドルで換算した日本人の賃金水準は、円高にに比例して上昇した。これは国際競争力を失うことを意味する。為替レートの変動(円高)で国際競争力を失い、実際に倒産したエルピーダメモリーのような企業がある。

話を元に戻すと、「賃金の下方硬直性」は確かにあり、欧米では名目賃金は下がっていない。不況で名目賃金を下げたのは、唯一日本だけなのである。欧米では不況は起こっているが、デフレになっていない。日本のデフレは世界の不況とは様相が異なっており、かなり特殊だ。この原因の一つは、国民性にあるのではないか。他の国では、企業の利益が出なくなった時にも、名目賃金を下げることは出来なかったのだ。もちろん、ペイオフや人員整理はやっているだろうが、賃金水準は保たれた。ところが、日本の労働者はリストラとともに賃金水準の低下も受け入れたのだ。日本人は、外国人に比べ真面目なのだ。こうしたスパイラルの結果、デフレになった。

現在日本の新古典派学者も表立って、私は新古典派だと名乗っている訳では勿論ない。フリードマン信奉者はそれより、分かり易く敬意を表明している。しかし、その両者の理論はあり得ない前提が必要だ。彼らは根拠を明らかにせず、表向き様々な学派の意見を公平にくみ取っているかのような発言をする。だが、彼らは心の中で思っている。「こけろ!アベノミクス。」

 

 

「日経新聞の真実」(田村秀男) – 真実は無視される

光文社から田村秀男の「日経新聞の真実」という新書が出版されている。著者は、産経新聞に移籍した元日経新聞記者。いわゆる暴露本である。

前半は当たり前のことが書かれており白けた記憶があるが、後半は読みごたえがあった。(副題に「なぜ御用メディアと言われるのか」と書かれているようにマスコミ、財務省、日本銀行が批判的に描かれている。)発刊は2013年3月である。

大体読まなくても内容は判るという人は多いと思うし、そのとおりだ。

ただ、一つ非常に印象に残ったことがあった。 それは、民主党政権時代に円高と株安が同時に起こったが、日本株の半分を所有する外人投資家からみると、円高になると名目(日本円)の株価が同じでも利益が上がることになる。この外人投資はファンドを通じて購入されており、ファンドごとにアメリカ株、ヨーロッパ株、新興国株、日本株などの配分割合(ポートフォリオ)は一定になるようにコンピュータプログラムされている。円高が進行すれば外国ファンドは儲けをを上げることになる。このため、利益が確定するとプログラムはこの日本株の売却命令を出し、円高と株安が同時に起こったように見える。 

現在ははアベノミクスで大幅な円安となり、全く逆のことが起こっているのは周知のとおり。円安になると、外人投資家にとっては評価額が下がり、ポートフォリオも下がるので、プログラムは購入命令を出し日本の株価は上がるのである。もちろん個別の会社事情や業態、日本の輸出依存の体質などの理由もあるだろう。だが、一番大きな理由であるということは間違いがない。近年のマネーゲームは1秒の何千分の1のスピードを単位にしながら、巨大マネーが様々な判断材料をパラメータにプログラムされ地球上を駆け回っているが、どれも似たようなものだ。

外人投資家が半分を占める日本の株価は、為替レートの変動の影響が非常に大きい。言ってみれば、為替が先、株価が後だ。 だが、日経新聞は相変わらず業績の見込みが改善したから株価が上がったという記事を書いている。なかなか、為替の変動に伴う、株価総額の約半分を占める外国のコンピュータプログラムの売買が、最大の原因とは書かない。

アベノミクスが始まって9か月、誰の目にも明らかな相関関係だが、それを書いてしまうと国内の個人投資家は経済新聞を読む意味を失い、個人投資家は証券会社の投資セミナーなどに出かける動機を失うからだろう。