「国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか」デービッド・アトキンソン

2010.5.14 ——————-

当初以下のように書いていた。しかし、アトキンソンさんいう日本の生産性が上がらないのは中小企業が原因だとしても、いきなり中小企業に廃業を求め、その従業員を生産性の高い企業で働くように集約するのが良いとしても、労働者の流動性には時間がかかるので、負の影響(例えば、自殺者が出るとか)が大きいと思うようになった。

つまり、現下のコロナのような問題を抱えているときに、この機会を捉えて、中小企業を切り捨てる政策をとると、労働者が新しい職場をすぐに見つけられるとは思えない。多くの生活ができない人が生じるのは確実な情勢で、まずはその人たちを救うことが最優先だと思う。

そのためには、まず財政拡大をして、人々を救い、経済を回復させる必要がある。そして、経済再生を果たしたときに、中小企業の生産性を高める方策をとるべきだ。

2020.1.8——————-

デービッド・アトキンソンの「国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか」を読んだ。彼は、イギリス人で日本の国宝を保守する小西美術工藝社の社長である。これまで、東洋経済に経済記事をよく連載しており、従来の経済学者にはない着眼点が新鮮で、「新・観光立国論」、「新・所得倍増論」、「日本人の勝算」など、ずっと読みたいと思っていた。彼は、とても説得力のあることを言うのだが、日本の経済学者からは「経済学の博士号を持っていないでしょう!」と言って、取り合ってくれないと嘆いていた。これほどまでに、アカデミズムの世界は閉鎖的なのだ。

彼は、1965年イギリス生まれ、オックスフォード大学日本学科卒業。ソロモンブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスのパートナー(共同出資者)まで昇進する。

Wikipediaによると次のように書かれている。

  • アナリストを引退して茶道に打ち込む時期を経て、日本の国宝や重要文化財などを補修している小西美術工藝社へ2009年に入社し、2010年に会長就任。2011年に社長兼務となって経営の建て直しにあたった。その後は日本の文化財の専門家として、日本の文化財政策・観光政策に関する提言なども行っている。東洋経済新報社の著書『新・観光立国論』で第24回山本七平賞を受賞した。2015年5月より東洋経済ONLINEにて文化財・観光・経済政策に関する題材を中心とした連載を開始。2016年より三田証券株式会社の社外取締役に就任。2017年6月より日本政府観光局の特別顧問に就任。
  • 日本の観光業界・行政が売り物にする「おもてなし」が外国人旅行者から見ると優先度が実は低いと指摘。長期滞在してもらえる仕組みづくりやガイドの配置、公衆トイレといった環境整備が遅れていることに苦言を呈している。また日本経済に関して、人口減少社会と少子高齢化社会における生産性向上の必要性を主張し、そのための賃上げや中小企業統合の政策を提言している。

同じく、Wikipediaからの引用であるが、次のような経済関係の書籍を出版しているのだが、日本の景気の悪化に比例して、彼の危機感が深まっているのが分かる。

  1. 『銀行―不良債権からの脱却』日本経済新聞社、1994年
  2. 『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』講談社+α新書、2014年
  3. 『新・観光立国論』東洋経済新報社、2015年
  4. 『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』講談社+α新書、2015年
  5. 『国宝消滅』東洋経済新報社、2016年
  6. 『新・所得倍増論』東洋経済新報社、2016年
  7. 『日本再生は、生産性向上しかない!』飛鳥新社、2017年
  8. 『世界一訪れたい日本のつくりかた』東洋経済新報社、2017年
  9. 『新・生産性立国論』東洋経済新報社、2018年
  10. 『日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義』東洋経済新報社、2019年
  11. 『日本の生存戦略―デービッド・アトキンソンと考える 』東洋経済新報社、2019年
  12. 『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』講談社、2019年

とうとう、(彼の忠告をいつまでたっても受け入れない)日本経済の悪化は来るところまで来て、『国運の分岐点』まで来たというのだ。そうなった原因は、日本の中小企業の多さと、これまでの政府の振興策にあるという。バブル崩壊までの日本の高度成長期は、人口の増大した時代で、高度成長も人口の増加の好影響によるものだと分析する。ところが、バブル崩壊とともに日本は、少子高齢化が進み、人口減少の時代に入っている。

中小企業の振興策(税制の優遇など)は、人口増大時期に雇用場所を提供するためには正しい政策だったが、人口減少へと方向性が変わった今では、生産性(=賃金)が上がらない第1の原因であり、そのために中小企業を統合し、数を減らし、生産性(=賃金)の上昇をさせることが必須だというのが結論である。

何時までたっても、日本の経済が良くならない責任は、日本の企業の経営者にあり、日本は経営者天国だという。また、政府の施策、通商産業省の中小企業政策は、ここ何十年間も有害だったという。こうしたことは、中堅企業経営者の団体「経済同友会」や中小企業の社長たちの団体「日本商工会議所」が言う、「最低賃金を上げると多くの中小企業が倒産し、雇用が失われる」という発言に良く表れているし、政府も中小企業の団体を含めた財界への支援を、票が欲しいがために減らそうとはしない。彼の主張は、中小企業が統合することで、労働環境のよい職場に集約され、生産性(=賃金)が上昇する。労働者は困らない、困るのはその必要以上に手厚い保護を受けてきた中小企業の経営者だけである。

いま、手を打たないと、地震や自然災害が多発すると、財政的に余裕のない日本を助けてくれるのは、アメリカを含めて西側には誰もおらず、多額の融資でアフリカを植民地化してきた中国だけであり、日本は中国の属国になってしまうのではないかと言う。

主は、昨今の「企業が多額の内部留保を溜め込んでいるのに、何故、賃金が上がらないのか」という疑問に対する分析は、様々に言われるが、デービッド・アトキンソンのこの主張が、目新しく、一番説得力があると思う。(勿論、プラザ合意による為替レートの円高、世界基準の会計基準への変更、ハゲタカファンド、現在の量的緩和の評価、アベノミクスなどに触れていないのが物足りない面があるが、あえて、議論を単純にして、分かりやすくしているのだろうと思っている。)

おしまい

 

エブリバディ・ノウズ【日本病】その6 韓国に負ける日本 - 最低賃金

日本は病気だと、主は確信している。 昨日(2018/7/27)、政府は、今年度の最低賃金を平均26円、3%を上げることを決定し、10月頃から実施するという。この3%のアップは3年連続で、マスコミは、来年度には首都圏の最低賃金が1,000円を超え、中小企業の経営が心配と書いているが、1日7時間、1か月20日働くとして、3,640円の増加。年にすると43,680円の増加にしかならず、上げ幅は小さく思い切りが悪すぎる。過去に円高不況に対する日本政府の財政支出が、海外から”Too small, too late”と批判を浴びたが、同じ愚を繰り返している。

朝日新聞記事:最低賃金 首都圏は1千円目前? 中小企業は悲鳴

日経新聞:最低賃金、なぜ上げ幅最高? 3つのポイント 経済

新聞紙面を読むと、上げ幅が過去にない大きさで例がなく、経営者目線で経営に対する悪影響を危惧する論調になっている。だが、この3%、26円というのは、あまりにもみみっちい。

さまざまな視点から日本経済に警鐘を鳴らすデービット・アトキンソン(小西美術藝術工芸社・社長)は、日本は世界に例を見ないほど最低賃金の低い国であり、現在の不況の原因の一つに、最低賃金の低さを指摘し、本来の水準は1,313円だと言っている。現状は、約5割低いということになる。中小企業経営者にとって最低賃金を上げることは、支払い給与が増え、経営を圧迫し、大企業に比べて死活問題になりがちだ。しかし、アトキンソンは、日本の企業数は多すぎ、過当競争に陥っているという。経営効率の悪い弱小企業が日本全体の生産性の足を引っ張っているのは間違いなく、生産性の低い企業は、速やかに退場した方が日本社会にとって望ましい。

東洋経済:「低すぎる最低賃金」が日本の諸悪の根源だ 2020年の適切な最低賃金は1313円

デービットアトキンソン

このアトキンソンは、長引くデフレ状況下における日本人のマインドについて、「良いものを安く提供することがよいことだとしても」、「例えば、500円以下で弁当を提供したり、50円で味噌汁を提供することは、デフレ状況にある日本経済にとって自殺行為だ」という意味のことを言っている。

だが現実は、コンビニやスーパーで売られている弁当類は、500円以下で売られている場合がとても多い。 主は、前々から思っているのだが、「サイゼリヤ」、牛丼の「吉野家」、「松屋」などのような極端に安い単価で食事を提供するビジネスモデルが、同業のレストランの経営を駆逐している面があると思っている。同様に、メーカーが文房具店などで高い値段で売っている商品を、100円均一ショップ向けに製品の分量を減らして100円で販売している。このようなことをすると、目先の売り上げを確保することはできても、競争激化と販売価格の低下を引き起こし、大きく儲けることはできないだろう。書籍では、「ブックオフ」という中古本の販売店があるが、消費者の選択肢は増やすものの、出版不況の一因になっていることは間違いないだろう。また、社会のトレンドも変わり、「メルカリ」で中古品を個人で売買したりするようになった。自動車も個人が所有する比率は昔と比べると、はるかに下がっているだろう。 こうしてみると、昭和の高度成長のように、日本国民全員が牧歌的な中流意識を持っていた時代環境は、今後もう来ないのかもしれない。

そうは言っても、アトキンソンが言うように、日本は生産性を向上させる以外に生き延びる術はない。日本の少子高齢化が加速するだけだとしたら、収入と支出の両方の単価を上げるしかない。給与所得のアップと、付加価値をつけて高い単価で販売することをしないと、日本経済はさらにシュリンクするだろう。さもなくば、税収も低下し、福祉への負担で破綻するしかないだろう。人口減少の割合以上に単価アップしないと、デフレからの脱却は出来ない。アベノミクスで2%の物価上昇という一定のコミットはしたものの、結果は出ていないわけで、さらに強いメッセージが必要だと思う。(アトキンソンは、生産性の向上に技術革新せよと言っているわけではない。高い値段で売れ、儲けを得よと言っているだけだ)

経済学の世界で「実質実効為替レート」という概念がある。

現在の日本の為替レートは、1ドル=110円あたりだ。だが、1985年のプラザ合意以前に240円程度だった円は、120円へと急激に円高となった。その後、政府は円高不況に対する財政出動をたびたび行いバブルが起こり、その処理に、大蔵省の土地融資の総量規制、日銀による急激な利上げを行い、バブルははじけ長い不況が続くことになった。だが、この長い不況の間、為替レートは、一部の例外的な時期を別にすると、1ドル=110円程度を保っている。この25年間は、デフレのため日本の物価は上がっていないが、世界を見渡すとデフレの国は日本しかなく、海外諸国の物価はインフレにより上がっている。これを考慮すると、日本の為替レートは、不当に円安になっていると言われかねないのだ。競争力を維持しようと血のにじむような節約の努力がデフレを引き起こし、その日本人の我慢してしまう性格が元で、為替レートが不当に安いと言われる結果を引き起こしている。次のリンクによると、1ドル=75円位が妥当ということになる。 今、日本では、インバウンドと言われる外人観光客の波が押し寄せて来ている。これはリーマンショック後の円高から、円安に変化したことに加え、日本国内の物価が上がっていないために、外人観光客にとって日本は物価の安い国になった(実質実効為替レートが安い)ことが原因だ。 先進国の中で、マクドナルドのハンバーガーを日本のように500円~600円で食べられる国は少ないはずだ。

やはり、デフレは金持ちに対する優遇策であり、貧しい大半の国民にとってはマイルドなインフレと円安の方が、経済成長による所得の向上が期待できるので、望ましい。

「実質実効為替レートで見れば円安が進んでいる」とは?

ところで、韓国は日本より大胆で、過激な政策を実行している。

朝日新聞:韓国の最低賃金835円に 10年で2倍、日本に迫る

韓国は、なんと最低賃金を2017年に16.4%上げ、2018年には10.9%上げるということだ!!もちろん、韓国経済がうまくいっているとは、主は思っていない。日本以上に問題があるのかもしれない。だが、一人当たりの多くの経済指標で、日本は先進国中で最低となっており、韓国文在寅(ムンジェイン)政権の方が、安倍政権より心意気を強く示しているのは間違いがない。政権もマスコミも同様だが、最低賃金をわずか3%上げて「高率のアップ」と言うようでは、あまりにも経営者に都合の良い判断で、情けない。日本の指導者は「八方美人で腰砕け」の「自己チュー」だとしか思えない。野党はさらにだめだ。

参考までに補足すると、日本の最低賃金は、この10年間でわずか2割ちょっとしか上昇していない。

おしまい