信用創造(通貨発行)の仕組みを全然理解していない 日本の主流派経済学者、小林慶一郎氏

新型コロナの政府諮問委員会の委員でもある日本の主流派経済学者の小林慶一郎氏が評論家の加谷珪一と、文芸春秋の「MMTは理論的に破綻している?」というタイトルで、YOUTUBEで対談されている。 小林慶一郎氏は「オオカミ少年と言われても毎年1冊は財政危機の本を出していくつもりです」と、自分の経済予測が的中してこなかったことを自虐的に日経新聞に語る正直な経済学者である。

小林慶一郎氏 コロナの政府諮問委員会委員 東京財団政策研究所研究主幹/慶應義塾大学客員教授

この番組はMMTの理論がどのように正しくないのかを考察する内容である。しかし、あまりにも誤解されている。ちゃんとMMTを理解しないで、批判している。 こんなにちゃんとMMTを理解しないで偉い学者の先生がしゃべっているかと思うと情けなくなってくる。 あんたら主流派の経済学者が、MMTを知りもしないで批判するから、いつまでたっても財政支出が増えず、日本は世界で一番成長できず先進国から途上国に転落しそうなところまでなっている。この責任がどれだけ重いか肝に銘じながら、発言をしてもらいたいところだ。

是非、小林慶一郎氏、(他の主流派の経済学者のみなさんも)エゴサーチするなりしてこの親父の説明に耳を傾けてくれ。


テーマは、《ハイパーインフレは絶対に起きない!?『MMT』を検証する》となっている。

冒頭の部分でMC役の加谷氏から、MMT理論にどのような印象をお持ちでしょうかと問われて、小林氏はこう答える。

「MMTはテクニカルに正しいところもある。貨幣を発行して、政府が債務を発行したらそれは誰が持つことになるのかと言う様なことを、バランスシートの行き先が誰になるのかということを説明していることは決して間違いではないですが、ただ、その結果として、一般の物価水準にどういう影響を与えるだろうかという経済理論の部分はあまり考えられていないような印象ですね。表面的な数字のやり取りだけを考えているという印象をもちましたですね。」

これを親父が聞いて思った。この小林先生、簿記のことをまったく勉強することなくしゃべっている。これでは、ふわーとした感想にしかすぎない。とらえどころがないので、反論のしようがない。また、物価水準にどういう影響を与えるかということは、供給力の範囲内で、通貨発行してもインフレにならないとMMTは通貨発行とは別のところで語っている。 もし、親父ならこう言う。

「MMTの通貨発行理論は正しい。日銀が日銀の中にあるA市中銀行の日銀当座預金口座に対し、100億円という通貨発行(信用創造)をするという取引を考えると、日銀は、100億円の「貸付金」という「資産」と、同額の「日銀当座預金」という「負債」を持つ。A市中銀行は、100億円の「日銀当座預金」という「資産」と、同額の「借入金」という「負債」をもつ。つまり、通貨発行と言いながら、A銀行に対し、100億円をくれてやるのではなく、A銀行は、日銀に返済の義務がある。ただし、この段階では、A銀行にベースマネーである「日銀当座預金」が《ブタ積み》になっている状態に過ぎない。 つぎに、政府が「国債」を100億円発行しするケースを考えると、A銀行は、「日銀当座預金」を使って「国債」を購入する。政府の国債発行の消化はこのように「日銀当座預金」を使って行われる。このため、市中の通貨の流通量、マネーストックには影響を及ぼさない。したがって、金利が上がるクラウディングアウトはない。 なお、変動相場制で自国建て通貨による国債発行は、供給力の範囲であればインフレを引き起こさない。むしろ、国債発行による財政支出が不足すると、日本のようなデフレをひき起こす。」

MCの加屋氏が、主流派の経済学の教科書は、信用創造を説明する際に本源預金のうち、流動性を準備率を10%とすれば、残りの額を貸し付けることで10倍の乗数効果が働くと説明されるとしたうえで、再び小林氏にコメントを求めた。小林氏はこう答えている。

「ぼくは実は説明の仕方を変えただけで、MMTが言っている信用創造のメカニズムと普通の経済学の教科書に書いてあるメカニズムと本質的には実はそんなに違いはないと思っています。 手順が違うだけです。普通の教科書に書いてあるように、銀行が預金をまず預かって集めました。貸し出します。それがまた返ってくる。ということの繰り返しでマネーが創造されていくことなんですけど。 MMTが言っている信用通貨論はまず銀行が貸し出しをします。貸し出しをすると貸し出したお金を、企業の預金口座に記帳すると。それは全然、現金は入ってない訳ですよね。単に貸し出しが100万円、その企業の預金口座に100万円入金したと記帳されるだけ。それがいくらでも増やせるじゃないか、とおっしゃるんですが、ただ最後には何が起きるかというと貸した企業の預金口座から企業が現金を引き出すかも知れない。現金を何らかの形で用意しなければならないということは同じなんですよね。だから結局、信用乗数が10倍位だとすると預金1万円に対し、10万円の信用創造ができるということは、結果として預金を集めて貸し出すというやり方であっても、先に貸し出しがあってその後支払いの準備に1万円を調達するというやり方であっても、結果として起きている信用創造は同じなんです。 だから、信用創造の仕方が違うというだけであって、言っている内容は、本質的な革命的な違いはある訳ではない、という風に理解した方がいいと思いますね。」

これはまったくMMT理論を正しく理解されていない。根本的に《金本位制度》の時代の説明が変わっていない。今は、通貨発行に際し、《金》の保有高という制約はない。小林氏は、順番を変えたら同じだと言うのだが、ここまでMMTを理解しないで批判するとは、無責任極まりないと親父は思う。 まず、信用創造には2種類ある。1つ目は、日銀が日銀の中で、日銀当座預金を市中銀行をあてにする信用創造がある。2つ目は、市中銀行が国民や企業に対し、貸付実行による信用創造をする。 なお、日銀の中にある日銀当座預金は、市中の流通通貨の決済には用いられない。日々の日銀・市中銀行間の決済、現金の融通、準備預金に使われる。小林氏は、現金を要求されたら、準備金を現金で用意する必要性を言われているが、この必要な現金は、日銀当座預金残高を使って、市中銀行は調達できる。 また、マネーが乗数効果で増えるみたいな言い方をされているが、当然ながら銀行の通貨発行は、借り手に与信力があるとき、かつ、借り手が借金をしようとするときにしか、マネーは生み出されない。日本のようなデフレの状態では、多くの企業や個人は借り手になろうとしない。なお、準備預金制度は、異次元の量的緩和により、日銀当座預金残高が何百兆円と莫大になり有名無実化している。 親父なら、こう言うだろう。

経済学の教科書に書いてある信用創造とMMTの信用創造はまったく違います。教科書に書いてあるメカニズムで、どの国も通貨発行していません。MMTは、現実に行われている取引を説明しているだけです。中央銀行の通貨発行は、「貸付金」という資産を得ると同時に、「通貨(=日銀当座預金)」という負債を抱えることと、中央銀行の中に口座を持つ市中の金融機関は、発行された「通貨(=日銀当座預金)」という資産と「借入金」という負債を抱えることが、同時に起こる取引である。 同じように、市中の金融機関は、取引相手の企業や個人の与信力を判定し、返済能力があると判断すれば、通貨発行(信用創造)できる。政府と市中の金融機関との関係と同様に、貸し手である市中の金融機関は、「貸付金」という資産を得ると同時に、「銀行預金」という負債を抱えることと、取引相手の企業や個人は、発行された「銀行預金」という資産と「借入金」という負債を抱える取引を同時におこなう。 政府と市中の金融機関の間で使われる「日銀当座預金」は、日銀のフリーハンドで増やし減らしたりできる。これに対し、市中の金融機関と取引相手である企業や個人との信用創造で生み出された預金は、返済されるとこの世界から消える。また、債権債務は、義務を伴うので、返済が滞ると、金融機関が返済の肩代わりをする必要がある。」

うっかりする人がいるかもしれませんが、「預金」は、普通は資産科目ですが、銀行にとっては立場が逆なので負債科目になります。

また、この動画は全編を見ようとすると有料のようでした。親父はお金を払っていませんので、無料で見れる20分ほどの範囲でこのブログを書いています。

おしまい

とても分かりやすい動画 《国と企業がお金を出し渋り、国民の財布が空になる》

ワニの口(NHKのHPより)

この動画ですが、結構わかりやすくて非常に説得力があります。 

昨年、財務事務次官の‎矢野康治氏が、日本はタイタニック号のように氷山にぶつかって沈没すると警鐘を鳴らしました。この《矢野論文》の中で、「ワニの口が広がり続けている」と税収が横ばいなのに、歳出だけが上の方向に伸びて広がっている、このままだと日本沈没だといったのです。

しかしこの動画は、「ワニの口」どころか「ワニ」そのものがいなかった、というものです。

動画の内容を親父流ですが、要約してみます。

  • 1.「ワニの口」の歳入には、税外収入や社会保障費の資金余剰などが除かれているのに対し、歳出には、他国にない「国債償還費」が含まれている。つまり、口が広がるように操作されている。(「国債償還費」については、詳細は後述)
  • 2.政府と企業がお金を使わないと、国民の財布にお金が回らず、国民は貯金を取り崩すしかない。(「ネットの資金需要」という表現が出てきます。政府と企業を合わせて、マイナス5%ほどの状態が、インフレにならず、かつ、国民にお金が回る状態になる。このマイナスが大きすぎるとインフレや金利上昇が起こる。今のアメリカがそうです。)
  • 3.1990年代のバブル崩壊以前は、政府と企業がお金をじゃんじゃん使ってマイナスにしていたので、国民に潤沢にお金が回っていた。
  • 4.1990年代のバブル崩壊以降になると、企業はバブル崩壊により投資を減らし、政府は財政危機宣言を出し、緊縮財政政策をはじめたことで、国民へお金が回らなくなった。
  • 5.高度成長期に、日本は世界一というほど高い貯蓄率を誇っていた。ところが、バブル崩壊以後、貯蓄率が低下した。この低下を、エコノミストは高齢化と人口減少が原因だと説明してきたが、それは間違いで、政府と企業がお金を使わなくなったからである。
  • 6.近年、企業の内部留保の増加傾向が定着したとことが、ますます国民の財布を苦しくしている。
  • 7.日本には、他の先進国にはない「国債の60年償還」というルールがある。このため、毎年の予算編成において、予算の15%以上を「国債償還費」に計上している。このようなことをしている国は日本以外にない。
  • 8.「国債の60年償還」というルールは、日本ですら有名無実化しており、現実に60年で償還していない。他の先進国と同様、償還時期が到来すると「借換債」と発行して、償還を繰り延べている。
  • 9.アメリカの現在の高インフレは、政府の財政支出を非常な高率で行ったのが原因である。会田卓司さんによると、政府と企業を合わせて5%くらいのマイナスが良いところを、コロナ対策でマイナス17%になるまで、財政支出をしたために現在のインフレを招いた。
  • 10.日本は、2000年以降、政府と企業の支出がゼロの時代が長く続き、コロナ対策で政府支出を増やしたものの、額が少なすぎる。

(なお、この対談は合計3回あります。冒頭に埋め込んだのは3回目で、上の要約につきましては、過去2回の内容が一部入っています。ご了承ください。)

おしまい

国債発行による国民へのバラマキとMMTのまとめ

世間では、国債発行で国民にお金をバラまくのは、国の借金を増やし子孫の代がこの借金を返済しなければならないという誤解がひろく信じられている。しかし真実は真逆で、国債発行をして、国民にバラまくのが通貨発行であり、これが30年来足りていない日本は経済成長が出来ず、そのためにGDPに対する国債残高の比率が世界中で一番大きな国になってしまった。

しかし、諸外国の国債発行残高の絶対値は、経済成長と同じ率で増えている。日本は、「異次元の金融緩和」と言い、中央銀行に「ブタ積み」しているだけで、国債発行で国民へお金を手渡すことをしなかった。この30年経済成長をしなかった。国債残高の比率が世界と比べてもっとも高い値になったのは、成長しなかったせいだ。

これを多くの主流派の経済学者や財務省それに追随するマスコミは、日本の国債残高の比率がGDPの2.5倍を超え、破綻寸前だとか煽るのだが、経済成長していないからこのように比率が高くなっている。諸外国の国債の残高はこの30年で2倍以上増えており、同時に、経済成長も2倍以上しているので、比率は増えていない。つまり、GDPの何倍までなら許容できるかという議論自体が無意味だ。日本のように経済成長できない国の比率はあがる。経済運営は、貧困さえ国民に強いれば何倍でも許容できる。

ところが、主流派の経済学者と財務省は、相変わらず経済運営を「入るを計って出ずるを制す」とまるで二宮尊徳がいうように、家計の台所と政府の台所を混同している。これまで、書いてきたように国債による資産の国民への移転は、日本という国に対する通貨の供給である。これが足りなかったばかりに、日本は成長できず、世界から落後しようとしている。

二宮尊徳、倹約が美徳のシンボル。政府が倹約しちゃあいけません。ほどほどが旨です。

《ここからは国債発行による資産の国民の移転が、通貨の供給だと正しく世間で認識されたとき、どのようなことが大事で、どのような制約があるのか考えたい。》

まず、大前提として国債の発行をして国民の資産を増やすにも当然限度がある。前に書いたが、日本という国の供給力(生産力)の範囲でしか可能でない。この30年間で、日本は供給力をかなり失った。日本企業は生産拠点を海外に移したし、日本で売られている製品のほとんどは日本製ではない。コロナで日本のGDPは500兆円ほどである。現在の需給ギャップ(生産力と購買力の差)が20兆円と言われているのに、岸田政権の当初予算に占める経済対策の規模は、1.2兆円と言われ、少なすぎる。

もし、国債発行が国民への通貨発行であり、それが経済成長に不可欠だと認識が改まったら、日本は蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、「金よこせ」との大合唱が起こるだろう。「税金なんか取らなくてもいいじゃん」という声も出るだろう。だが、税金は格差をなくし、公平を保つために必須だ。

このため、とりあえず国債発行が通貨発行であり、適度にされることが必須だと認識が変わった時に、最初にすべき政策は、減税と社会保障費控除額の減少だろう。減税は、消費税の減税もしくは廃止が一番である。税の機能は、好景気が行き過ぎたときに徴税で景気を冷やし、不景気のときに税率を下げて景気を刺激するという働きのモノである。ところが、消費税は、好景気不景気に関係なく、消費に対する罰金であり、景気を悪化させる働きがある。また、消費税は、所得税や法人税のように景気が良いときに税率が上がり、不景気のときに税率が下がる「景気安定化装置(ビルトインスタビライザー)」とは真逆の働きをする。つまり、貧乏人に重い、金持ちに軽いという逆進性があり、不景気化、格差拡大のおおきな原因である。

また、社会保障費も30年間で、恐るべきほどに高負担になっている。こちらも、社会保障費の負担には所得の上限が決まっており、年収1000万円当たりの負担が一番大きいが、1000万円辺りをこえると、負担率が下がっていく逆進性がある。こちらも、まず税金のカバー率を上げ、国民の負担率を下げることだ。

そこから先の話と話として、科学技術に対する支援、インフラ整備、防災対策、教育支援、とくに学生ローンをやめて、給付型の奨学金、文化振興など、やるべきことは山のようにある。

ところが、政府がやろうとしているのは、特定の分野のみに裨益する政策、例えば、GOTOトラベルのような施策をやりたがる。これでは貧乏人には、一向にメリットがない。儲かるのは、大手旅行会社、プログラム開発のベンダー、大手旅館などだけだ。為政者は、いつまで、利権を眼中に置いているのかと思う。

そして、一番大事なことは、円を海外へ流出させないことだ。日本国内で生産することである。海外から何でも輸入して、良い暮らしを続けられると思っていたら大間違いである。今は、高度成長期の貯えで経常収支が良いが、エネルギー価格の高騰で貿易収支は悪化している。これに加えて生産がこれ以上落ちるとヤバイ。海外でも稼げない、国内でも生産できなないとなると死ぬしかない。やはり、海外展開している工場を日本へ呼び戻し、生産力を回復しながら新しい技術も自前で開発するしかない。そのために自由貿易とか、グローバリズムとか寝言を言っていてはダメだ。保護主義義的な政策へ転換すべきだ。いま世界は、グローバリズムの失敗のツケをどう処理しようかとせめぎ合っている最中だ。

おしまい

国債発行が国民を豊かにする

(2022/8/3, 2022/8/4 & 2022/9/15 一部、追記しました)

まず最初に、「国債発行が国民を豊にする」という説明の根拠をお伝えする。ここでは、2人のおっしゃっていることをお伝えする。私が書いているのは、お二人がおっしゃっている内容を、表現方法を少し変えて(分かりやすく)伝えているだけである。お二人に感謝申し上げる。

一人目は、どんぶり勘定事務所の神田知宜(かんだとものり)さんである。神田さんは、会計事務所を経営されている方で、こうした通貨発行の旧来の社会通念をひっくり返すような動画もさることながら、中小企業経営相談などの動画も多数アップされていてなかなか楽しい。通貨発行のプロセスについては、日本銀行と、日本銀行金融研究所がそれぞれ、信用創造(通貨発行)の手順を公表しており、そこから会計取引を簿記の仕訳で表したということである。 

二人目は、「目からウロコが落ちる奇跡の経済教室」著者中野剛志さんである。中野さんは、イングランド銀行の記述と、建部正義さんの「国債問題と内生的貨幣供給論」をもとに論述されている。中野剛志さんは、経済学者なのだが現在は経産省に勤めておられるMMTの中心人物のおひとりである。

中野剛志さんの本

お二人が言われる説明の具体的な根拠の部分は、最後に掲げた。読んでみようと思う方は是非、参照してください。

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それでは、国債の発行は通貨発行であり、国民を豊かにするということを説明する。

これを理解し、世間でも理解されるようになると社会の問題のほとんどが改善する。問題のほとんどがお金がらみだから。

日銀は、国債を発行、市中銀行に引き受けさせる際、日銀当座預金を信用創造(通貨発行)により市中銀行に供給し、それを元手にして市中銀行が国債を購入する。市中銀行にとっては、利子のつかない日銀当座預金の形で預金を持っているより、国債の形で資産を持っている方が利子がつくし、国債は元本割れのリスクもないので、市中銀行は国債を買わないという選択肢はない。必ず、国債を買う。こうしたこと、日銀が信用創造により市中銀行に資金を与えることでやっているという事実は、世間では全く知られていないと言っていいほどだ。 この国債発行と購入のプロセスを何故、日銀の人たちは世間に向かって大きな声で言わないのか。それをホームページに書いたり本で出版しているのに、なぜ言わないのだろうか。 おそらく通説と、驚天動地というか、地動説と天動説ほど違う事実を言うのは、その後の世間に与える衝撃の大きさを考えるからだろう。 しかし、この事実が、広く経済学者の間で理解されれば、経済の世界は180度変わる。すでに、欧米はそれを理解して、経済政策に取り入れている。 日銀の実務担当者よ、通貨発行、国債発行の真実を述べてくれ。

なおこの事実は、自民党の参議院議員西田昌司氏が、国会で取り上げ、日銀の担当者も、財務省の担当者も、さらには、鈴木俊一財務大臣も、国債の発行が国民に資産をもたらすということを認めている。ぜひ、皆さんもネットなどで、調べてみてください。


ここから、一連の具体的なプロセスを説明する。まず第1番目に、日銀がB銀行に、「国債」を購入するための「日銀当座預金」を通貨発行(信用創造)する。このとき、日銀は、「日銀当座預金」をB銀行にくれてやるのではなく、「貸付金」という債権の形で「資産」をもち、B銀行は「借入金」という形で「負債」をもつということに注意してください。

次に2番目に、政府が「国債」を発行して、B銀行が「国債」を日銀を経由して購入する。3番目として政府はその代金で、C企業から「スーパーコンピューター」(=「固定資産」)を購入する。「スーパーコンピューター」という例えにしたが、IR施設の建設でも何でも構わない。

なお、一連の取引を終了した後で、左右(借方と貸方)に同じ勘定科目が出てくる場合に相殺すると何が起こっているのかが一目で分かる。そのため、最初の段階から最後に消える勘定科目は、前もって抹線した。しかし、取引の時点では、勘定科目は生きている。最後に消し込んだという前提で見てもらいたい。

1-1 B銀行が、日銀の通貨発行(信用創造)により、日銀当座預金を手にする。

この部分が、日銀がB銀行に対し「日銀当座預金」を信用創造(通貨発行)する部分である。日銀は、日銀の中にあるB銀行の日銀当座預金口座に、1000億円振込むと同時に、「貸付金」という債権をもつ。B銀行は、1000億円の「日銀当座預金」という資産を手に入れると同時に「借入金」という債務を背負う。

B銀行(対日銀) (日銀当座預金)1,000億円 (借入金)1,000億円

日銀(対B銀行)  (貸付金)1,000億円   (日銀当座預金)1,000億円

これです!右端の部分です。日銀が、市中銀行に国債を買うお金を渡しています!それが国債と交換されています!

1-2 B銀行が国債を購入。代金を政府へ直接払えないので、日銀へ支払い。

B銀行(政府) (国債)1,000億円

B銀行(日銀)             (日銀当座預金)1,000億円

B銀行は、日銀当座預金を使って国債を購入した。日銀当座預金1000億円を手放し、国債1000億円という債権を手にした。(上の説明。以下同じ。)

日銀(B銀行) (日銀当座預金)1,000億円

日銀(政府)               (政府預金)1,000億円

日銀は、B銀行にある負債の日銀当座預金を消し、政府預金の口座に入金した。日銀は、B銀行から振り込まれた1000億円を政府の口座に振り替えた。

政府(日銀)  (政府預金)1,000億円

政府(B銀行)             (国債)1,000億円

政府は、B銀行に対し国債1000億円という負債を負い、政府預金1000億円という財源を手に入れた。

1-3 政府がスパコンを日本のC企業発注。支払いを日銀、B銀行を経由し、C企業へ支払い。

政府(C企業)(スパコン=固定資産)1,000億円

政府(日銀)              (政府預金)1,000億円

政府は、日銀の口座にある政府預金を払い出し、スーパーコンピューターを手に入れる。

日銀(B銀行)             (日銀当座預金)1,000億円

日銀(政府)  (政府預金)1,000億円

日銀は、政府から預金を受け取ったので、政府預金を増やすとともにB銀行の日銀当座預金を増やす。

B銀行(政府) (日銀当座預金)1,000億円

B銀行(C企業)  信用創造 →→→→→→(普通預金)1,000億円

B銀行は、日銀から日銀当座預金を受け取ったので、C企業の普通預金を増やす。つまり、政府が支払ったスパコンの代金1000億円を日銀経由で支払い、B銀行がC企業の口座に1000億円を記帳した。これも、世の中に存在していなかったお金が生み出されたという意味で、信用創造(通貨発行)であることに注意してください。

C企業(B銀行)(普通預金)1,000億円

C企業(固定資産)         →→→(スパコン=固定資産)1,000億円

C企業は有形固定資産であるスーパーコンピューターを国に渡し、対価を受け取った。

1-4 B銀行が、手にした日銀当座預金を元手に、借入金を日銀に返済する。

B銀行(日銀)(借入金)1,000億円    (日銀当座預金)1,000億円

日銀(B銀行)(日銀当座預金)1,000億円 (貸付金)1,000億円

2.これらの取引を相殺消去する。

政府(B銀行)              (国債)1,000億円

政府(C企業)(スパコン=固定資産)1,000億円

B銀行(政府) (国債)1,000億円

B銀行(C企業)             (普通預金)1,000億円

C企業(B銀行)(普通預金)1,000億円


(結論) 

政府は国債を1,000億円発行し、スーパーコンピューターを手に入れた。B銀行は、国債1,000億円の債権を手にし、他方、C企業に対し普通預金1,000億円という負債を手にした。C企業は作ったスーパーコンピューターを政府に売り(その分の固定資産が減少し)、普通預金1,000億円を手にする。政府には、単に、国債を1,000億円発行したという履歴が残るだけだ。

前にも書いたが、この国債の残高は償還する必要はない。時期が来れば、借換債を発行して、償還を繰り延べるだけだ。誰も困らない。国民は豊かになった。この時、日本全体で見ると、国債発行で1,000億円の資産が形成されている。つまり、国債発行は国民に対する通貨発行そのものである。

注意しなければならないのは、国債の発行による通貨発行は、その国の供給力の範囲でしかできない。供給力を超えてやると、インフレになってしまう。(逆に言うと、これまで日本は国債発行が足りなかったから、成長できなかった。国債をもっと発行してい入れば、少なくとも欧米並みに成長していただろう。そうすれば、国債残高のGDP比率が世界最高とはならなかっただろう。)

日本の供給力は、年々怪しくなっている。日本で売られている商品の殆どが、中国製や、その他の途上国で作られてものを輸入して販売している。この状態が今よりひどくなれば、国債を発行するとインフレになるので、この手は使えない。つまり、チャンスは日本に国力のある今しかない。

おしまい

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以下、お二人の根拠となる事項。

最初はどんぶり勘定事務所の神田知宜さんが、根拠として示していただいたものだ。 日銀は、ホームペーの《決済・市場》《日銀当座預金取引・当座貸越取引》《日中当座貸越基本要領》の3.の2同時担保受払の「(2)取引先が、日銀ネットを利用して新規に発行される国債(以下「新規発行国債」という。)を取得する場合において、当該取引先が希望するときは、当該取引先に、新規発行国債の取得と同時に3.に定める根担保として差入れさせる。この場合において、新規発行国債の取得にかかる資金の払込みのために必要なときは、日中当座貸越を行うものとする。」と書いている。また、日本銀行金融研究所が「日本銀行の機能と業務(日本銀行金融研究所編、有斐閣、2011年刊)」の第4章第4節「決済と日本銀行の役割」で、「国債の買い手である金融機関が,売り手から受け取る国債を担保に日本銀行から日中当座貸越を受け,同時にその資金を当該国債の買入代金の支払いにあてることができる仕組みで,流動性の節約に有効であることから広く用いられている。」と書いている。

二人目は、「目からウロコが落ちる奇跡の経済教室」著者中野剛志さんである。中野さんは、イングランド銀行の記述をもとに次のように論述されている。こちらは、とても読みやすい。

   ① 銀行 が 国債( 新規 発行 国債) を 購入 する と、 銀行 保有 の 日銀当座預金 は、 政府 が 開設 する 日銀当座預金 勘定 に 振り替え られる    ② 政府 は、 例えば 公共事業 の 発注 にあたり、 請負 企業 に 政府 小切手 によって その 代金 を 支払う    ③ 企業 は、 政府 小切手 を 自己 の 取引 銀行 に 持ち込み、 代金 の 取立 を 依頼 する    ④ 取立 を 依頼 さ れ た 銀行 は、 それ に 相当 する 金額 を 企業 の 口座 に 記帳 する( ここ で 新た な 民間 預金 が 生まれる) と 同時に、 代金 の 取立 を 日本銀行 に 依頼 する    ⑤ この 結果、 政府 保有 の 日銀当座預金( これ は 国債 の 銀行 への 売却 によって 入手 さ れ た もの で ある) が、 銀行 が 開設 する 日銀当座預金 勘定 に 振り替え られる    ⑥ 銀行 は 戻っ て き た 日銀当座預金 で 再び 新規 発行 国債 を 購入 する こと が できる。

  この プロセス から、 次 の 二つ の こと が 分かり ます。   第一 に、 銀行 は、 日銀 に 設け られ た 日銀当座預金 を通じて、 国債 を 購入 し て い ます。 集め た 民間 預金 を 元手 に し て 購入 し て いる わけ では ない の です。 です から、 銀行 の 国債 購入 は、 民間 預金 の 制約 を いっさい 受け ませ ん。   では、 この 銀行 の「 日銀当座預金」 は、 どこ から 来 た の でしょ う か。 それ は、 もと はと 言え ば、 日銀 が 供給 し た もの なの です。   さて、 そう だ と する と、 銀行 による 国債 購入 という のは、 日銀 が 政府 から 直接 国債を購入し て 当座預金 を 供給 する こと( 日銀 による 政府 への 信用創造)、 いわゆる「 財政 ファイナンス」 と ほぼ 同じ という こと になり ます。 もっとも、 財政 ファイナンス は、 法律( 財政法 第 五条) により 原則 禁止 とさ れ て い ます。 しかし、 銀行 による 国債 購入 も、 結局 の ところ、 日銀 が 供給 し た 当座預金 を通じて 行わ れ て いる の です から、 財政 ファイナンス も 同然 でしょ う。 「財政 ファイナンス は、 ハイパーインフレ に なる から、 絶対 に やっ ては なら ない!」 と よく 言わ れ ます。 しかし、 銀行 の 国債 購入 という 事実 上 の「 財政 ファイナンス」 は、 普通 に 行わ れ て いる の です。 でも、 ハイパーインフレ なんて 起き て い ませ ん ね。   いずれ に し ても、 政府 の 財政赤字 は、 民間 貯蓄( 預金) が ファイナンス し て いる のでは ない の です。   第二 に、 政府 が 国債 を 発行 し て、 財政 支出 を 行っ た 結果、 その 支出 額 と 同額 の「 民間 預金」 が 新た に 生まれ て い ます。 つまり、 政府 の 赤字財政 支出 は、 民間 貯蓄( 預金) を 減らす のでは なく、 逆 に 増やす の です。

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MMTを批判する人たちが見ようとしない点 その2 反論編 《貨幣理論と通貨発行益の違い》

(2022/7/30 長かったのでこのトピックを分割しました)

《自称経済評論家》の主のコメント

ここから《自称経済評論家》のコメントを述べてみたい。最初は、現在の主流派経済学である新古典派の教科書に載っている、信用創造と通貨発行益を見ていく。

まず、新古典派経済学者たちが間違ったのは、金本位制度から管理通貨制度へ、固定相場から変動相場へ移行したにもかかわらず、貨幣観を改めなかったことにある。

新古典派経済学で説明される信用創造(Money Creation=通貨発行)は、下のように説明される。つまり、銀行が、顧客から預かった預金を連鎖的に貸し出しを繰り返すことで、お金(預金通貨量)が増えていくしくみをいう。 これを管理通貨制度になっても変えなかった。

《まずは、新古典派の貨幣理論、乗数理論と通貨発行益とは》

1.《乗数効果による通貨発行》

以下が、新古典派の乗数理論による信用創造である。出典は、https://www.findai.com/yogow/w00321.html 「金融大学」から引用させてもらった。

(https://www.findai.com/yogow/w00321.html 「金融大学」から引用)

新古典派経済学の信用創造(通貨発行)は、預金者の預金に見合う法定準備金を日銀当座預金に市中銀行が預け、残りの額を連鎖的にいろんな市中銀行が貸出すことで、100円の預金が、1,000円の貸し出しを生むという。これを信用乗数という。この例は、法定準備率が10%の場合なので、現在の準備率は2%で考えると、もっと莫大な貸し出しを理論的には生める状態にある。

参考に付け加えると、今の日本の準備通貨制度は、黒田総裁の異次元の金融緩和により、以前に100兆円程度だった準備預金=日銀当座預金が、500兆円ほどに膨れ上がっており、準備預金制度は有名無実化している

2.《通貨発行益》

もう一つ、通貨発行益(シニョリッジ)という考え方を紹介する。新古典派経済学では、造幣局が発行するコイン(硬貨)と、日銀が保有する国債や貸付金が生む利子のみを、通貨発行益というのが一般的だ。下が、https://gentosha-go.com/articles/-/6487 佐々木 浩二さんの記事から引用したものだ。

https://gentosha-go.com/articles/-/6487 佐々木 浩二さんの記事から引用

この説明によると、日銀のバランスシートの「負債に計上される銀行券と日銀当座預金はほぼ無利子であり,資産に計上される日本国債や貸出金は有利子です。通貨を発行する日本銀行の利益は,無利子の負債の見合いに有利子の資産を持つことから生じます。」と書かれている。

 また、通貨発行益については、造幣局が発行するコインは、政府や日銀の「負債」ではなく、鋳造費用を差し引いた金額が「利益」になる。同様に、日銀が保有する国債は利子を生むので、利子が「発行益」だと説明する

《MMTが考える信用創造と通貨発行益について》

一番端的に違う点は、国債は一般的に「負債」と表現されるが、政府は、民間と機能が根本的に異なっており、「負債」ではなく「資本」的性質と考えられる。つまり、返済の義務がないのである。

実際問題として、償還期限がきた国債は、借換債を発行することで繰り延べている。いつまで経っても償還していないのである。これはどこの国も同様である。経済の主体は、《国》と《民間(企業と国民)》と《海外》といわれるが、とにかく《国》の果たす役目は特殊で、《民間(企業や国民)》とは全く違う。

政府が発行する国債は、「負債」に位置づけられる。しかし、「負債」を消すために、一つの方法として、国民からの徴税額を増やして償還する方法がある。ただし、そうして「負債」を減らすと、消費税を増税した場合のように、市中で流通する通貨量が減り、不況を招く。

国の借金、国債残高という「負債」を、国の通貨発行で返済すれば良いというような発言を聞くことがあるが、これはあり得ない。簿記の考え方では、貸方にある「負債」を通貨発行という「負債」で消すことは出来ない。負債を消すためには、資産を手にしないと負債を消去できない。

金本位制であれば、通貨はそれに見合う金との交換を保証しているので、金の保有量以上に通貨を発行できない。ところが、世の中の技術進歩で経済が成長し、自動車、ロケット、人工衛星など過去になかった財が登場し、従来の貨幣価値では足りなくなった。もし通貨を発行できないのであれば、その財の対価を払えない。そこで金本位制を離脱した。

為替レートも固定相場から、経済の実力に合った市場で決定される変動相場制へ移行した。

この二つの作用で、各国は自由に経済政策をとることができ、しかも、それらの政策が市場で評価され、《見えざる手》が働くという需給理論はここに限っては正しい。国が放漫経営をすると通貨安を招き、輸入物価が上がり国民は苦しむ。ただ長い目で見ると、経済的に弱い国の通貨は、為替レートも弱くなるが、それが貿易面での交易条件を有利にし、時間が経つと経済が成長するベクトルが働く。

ところが、新古典派派経学の貨幣論は相変わらず通貨自体に値打ちがあるという。

新古典派経済学の信用乗数論の貨幣観は、準備預金を一定確保していれば、預金者全員が銀行へ引き下ろしにいかないという経験則を説明のよりどころにしている。

しかしMMTは、中央銀行も市中銀行もどちらもが、貸し手側は、「貸付金」という資産と「預金」という負債を負い、借り手側は、「預金」という資産と「借入金」とういう負債が生じることで、信用創造(通貨発行)しているという。つまり、無から有を生む》のがMMTの通貨発行の考え方だ。MMTの信用創造では、会計学的には違うが、全額が通貨発行益と言えるかもしれない。

具体的な例を挙げる。マイホームのためにAさんが銀行ローン3000万円を借りるときのことを例に挙げて説明する。銀行がAさんにローンを実行するとき、銀行は「貸付金3,000万円」という資産を持つと同時に、「預金3,000万円」という負債が生じる。この「預金3,000万円」という負債は、Aさんに対してではなく、銀行が社会に対して3,000万円の負債を抱えたという意味だ。Aさんが、もしローンを返済しなければ、今度は銀行は3,000万円の負債を処理する必要があるからだ。

この時、銀行など貸付業務を行う主体にとって、「預金3,000万円」は負債になるので要注意である。一方、Aさんは、「預金3,000万円」という資産を手元に得て、同時に「借入金3,000万円」という負債を負う。つまり、Aさんは預金を手にしたかわりに、返済義務を負ったわけだ。 これがMMTの信用創造(通貨発行)である。これは、キーボードマネーとか万年筆マネーと言われるもので、誰か他人の預金を又貸ししているのではなく、キーボードを叩くだけで与信が行われる。すなわち、通貨が発行される。

日銀が行う信用創造(通貨発行)もまったく同様である。「預金」が「日銀当座預金」に代わるだけだ。 つまり、新古典派が考えるように、預金者の預金が連鎖的にぐるぐる回って貸付金が増えたりしない。

結局のところ、通貨自体は、バーチャルで抽象的な約束であり、実態は金銭の貸借関係、債権債務ががあるだけだ。市中銀行と国民の間の貸借は、倒産や破産の場合に返済されないリスクがあり、返済されないときは、市中銀行は「引当金」を償却したり、「損金」を計上して対応しなければならない。

しかし、日銀と市中銀行の関係は、日銀に倒産のリスクがない。そこが決定的に違う。日銀(と政府)が、極端な放漫経営(5000兆円の国債発行して需要を喚起するとか)をせず、程よく通貨を供給し、バランスよく財政支出し、バランスよく徴税と分配政策をとれば、日本国民は幸せな生活を送れる。

「悪貨は良貨を駆逐する」(19世紀にイギリスの貿易・為替・金融業者であるトーマス・グレシャムが提唱した、『グレシャムの法則』)という表現は、通貨自体に値打ちがあると考える分かりやすい商品貨幣論である。新古典派経済学はこのような貨幣観を持ち続けている。

ぼくたちは、昔教科書で、幕府は通貨が足りなくなった時に、改鋳で希少金属の含有量を減らしたと習ったが、あれも嘘だ。改鋳することで、たしかに通貨の供給量が増え、価値が下がり物価が上がったのかもしれないが、金本位制のように通貨自体に値打ちがあるから、希少金属の含有量を減らすインチキをしたと道徳的に非難されるべきとのニュアンスがある

つまり、希少金属の含有量は問題ではない。通貨自体に求められる条件は、擦り減らなくて偽造されないものであれば、貝殻であろうと何でもよい。幕府は、幕府が定めた《何とか通宝》《何両》を年貢として収めろ、納めないと《死罪》だと言えば、、農民も商人も《何両》かを手に入れて幕府へ払おうとする。それが、通貨に対する信認が生じる原因である。現在でも同じで、日本政府は日本円で納税することを求めており、それが《円》が信任される理由である。

ここまでは、通貨発行について述べてきたが、対をなす大きな問題が一つある。つまり、それは供給力の問題と円の海外への流出の問題である。その3へつづく。

おしまい

MMTを批判する人たちが見ようとしない点 その3 反論編 《供給力と日本円海外流出》

(2022/7/30 長かったので、反論の部分を2つに分けました。)

《供給力と日本円海外流出の問題》

田内学さん著 情報工学専攻だが、経済学専攻よりよほど核心をついている

不況が続く日本ではほとんど生産できていないように見える。例えば、100円均一ショップに行けば、ほとんどが中国製などで日本製はほぼない。衣料品もそうだ。スーパーでもユニクロ、GUでも、ゾゾタウンでも、売っているのは日本の会社でも、生産国は中国やバングラデシュ、ベトナム製などで日本製ではない。

もちろん一部で、自動車や工作機械などに国際競争力があって、日本国内で生産しているものがある。しかし、生産拠点が海外にあり、財務諸表上だけ連結決算により、日本企業の利益として計上されている場合には、そうした企業の利益の多くは、生産国の中国などで再投資され、地理的な日本にメリットがほぼないという状況もある。

MMTは、「変動通貨制で、自国通貨建てで国債を発行する場合、供給力を超えなければインフレにならず、なんの問題もない。むしろ、2%のインフレを起こすほどに国債発行して、財政支出をするとほどよく経済成長する。」と言っている。

つまり、日本が供給力や生産力を失ってしまうと、かりに消費税をなくして国民の所得を上げたり、給付金を配って需要を喚起しようとしても、買うものがなければインフレになる。もし、大阪万博の会場を日本のゼネコンが作れなくて、中国企業が建設を請け負えば、国債を発行して資金を調達しても、海外流出してしまうので日本国民には裨益しない。つまり、最初に戻るのだが、日本で売られている多くの財(=商品)は、中国製などの外国製であれば、円が流出する。

最近では、投資信託やREITなどの投資資金も、日本国内のファンドより、過去の利回り実績が海外のファンドの方が大きいので、かなり海外へ流出している。持ち主は日本人とはいえ、そのお金は海外で運用されることになり、少なくとも機会損失は生じている。

こうしたことで、MMTの理論は正しいのだが、供給力に制約があると、その範囲内でしか通貨供給を増やした財政支出はできない制限がある。今のように海外製品をどんどん輸入している状況は、日本の生産力をアップしないし、昔は日本で生産したものを生産しなくなっているので、行きづまる状況が来ようとしている。

つまり、どの国も成長している間は、どんどん通貨供給量を増やしても問題ない。むしろ、ある程度通貨供給量を増やし、マイルドなインフレになっている方が、所得(=需要)も生産(=供給)も伸び、国民は豊かになれる。これをうまくやったのが、何といっても中国であり、年率二桁の成長を続けてきた。そこそこ成長してきたのが、欧米などである。日本は、財政赤字を恐れ、国債発行して通貨供給量を増やさず、ほぼゼロ成長である。

あと1点、《有効需要》と《潜在需要》を混同している人がいる。「良いものを作れば売れる」、「すごく良いものを作れば高くても売れる」とかいう人がいる。しかし、財布にお金の入っていない人が「欲しい」と思うのは需要ではない。《潜在需要》でしか過ぎないので、どんだけよいもので買いたくても売れない。

例えば、日本人の6人に一人が貧困で、生理になってもナプキンを買えない女性が6人に一人いるとする。ナプキンは必需品である。しかし、貧困な女性は買いたいという気持ちを持っていても、財布にお金がなければ、《潜在需要》にしか過ぎない。つまり、この6人に一人の女性の貧困が解消されたときに初めて、必需品のナプキンが《有効需要》になり、購入される。つまり、現状のナプキンの販売は6分の1、需要が減っている状態で、貧困が解消されれば、その分販売が増える性質のものだ。このとき、ナプキンの製造会社に生産余力があれば、単純に販売額が増えるのだが、生産が限界であれば、ナプキンの販売価格は上昇する。

この点も、新古典派は供給重視なので、よいものを安く提供すれば需要を喚起するというような言い方をするが、所詮ない袖は振れないのである。そこを日本人は勘違いして、国民全員が良くて安いものを作ろうと強迫観念にかられ必死であるが、この作戦は間違っている。

《コロナと戦争による最近の高率の欧米のインフレ》

最近の欧米の高いインフレ率が良く報道される。アメリカでは10%近いインフレ率で、ヨーロッパも同じようなものだ。これに対して、日本では2%程度である。

このインフレの原因は、コロナに対する財政支出とウクライナ戦争によるエネルギー価格の上昇が主な原因である。だが、欧米と日本では財政支出の規模がまったく違う。

アメリカでは、コロナが始まってから400兆円とも言われる財政支出をしたとも言われ、失業した労働者に月4,000ドル(その時点のレートで44万円)を支給したという。このため、職に就いている者が職をやめて給付金を貰ったという。その結果、労働者不足が顕著になり、レストランで働く大学生の時給がチップを入れると50ドル(6,500円)、ウォルマートの大卒初任給が年収で20万ドル(2,600万円)、アマゾンの基本給の年収上限が35万ドル(4,000万円)に達したという。

ところが、日本の場合は、こうした政府の国民に対する真水と言われる一般会計からの財政支出は、安倍政権の時にまずまずやったものの、菅総理、岸田総理と代わるにつれ、ほとんど出していない。そのため、日本の場合は、エネルギーや穀物価格、円安の影響による2%ほどのインフレになっている。

そして、欧米や中国はコロナ前の水準の経済成長に戻っているのだが、日本だけがコロナ前の水準に戻っていない。ところが、日本のマスコミはこうした海外の賃金の上昇は一切報道せず、物価の上昇すなわち、インフレ率だけを取り上げ「海外は10%、日本は2%でよくやっている」報道し、賃金上昇については触れない。その結果、国民は「海外より日本はマシ。」と思っている。

ここで、思うのは欧米などは、コロナや戦争という緊急事態が生じたため財政規律を棚上げにして財政支出をしたということだ。つまり、MMTの政策理論を採用して、実施したその結果、高率のインフレ率をひき起こしたが、今のところ多くの国民の賃金は上昇した。「経済は失速せずにソフトランディングできるか、ハードランディングになるかという事態になっている」というような報道になっているが、これは違う。イエレンさんはそんな見方ではない。

つまり、サンダースやオカシオコルテスが主導するMMTによる社会実験は、やりすぎたかもしれないが、効果は確認された。ドルの信用もユーロ、ポンドの信用も失われていない。今後、やり方を上手に工夫し、勉強する余地は大いにある。

オカシオコルテス

ビビり虫の日本、あるいは、東大法学部出身者が実権を握る経済オンチで石頭の財務省に逆らえない国民は、何もせず沈没を続けている。

おしまい

MMTを批判する人たちが見ようとしない点 その1 批判派人物紹介

(2022/7/30に3つに分けるため一部修正しました)

ここにあげた人たち成田悠輔さん、ひろゆきさん、高橋洋一さんと中田敦彦さんは、YOUTUBEや、マスコミでの影響力の大きい人たちであり、YOUTUBEの画面を切り抜かさせてもらった。やり方としては、よろしくないかなと思うし、議論をすべて聞いてから判断して欲しいというのもあるだろうから、恐縮だが、議論を簡便にする方法としてお許しいただきたい。

補足したいのだが、ここにあげた4人の方々は、貨幣観をどう捉えるかという点を別にすれば、全員、高く評価させてもらっている。成田さんの政治に対する処方箋は基本的に、「年寄り退場しろ」というもので同感だし、ひろゆき氏は何のトピックでも是々非々で言いたいことを言いながら、どのトピックも的を得ている、高橋洋一氏は、アベノミクスが登場した時に主は、新古典派経済学の一派であるリフレ派の経済理論を勉強していて、高橋氏の本を何冊か読ませてもらった。政府と日銀の《統合政府》の概念を持ち込んだのは氏の功績だと思う。またオリラジ中田氏もいろいろなトピックをよく勉強されていて、よく消化されていて、いつも楽しく見させていただいている。

それだけに、ここに上げさていただいた4名の方はどなたも人気で、それだけに世論に与える影響が大きい。ただし、4名の方と違って、MMTの理論は間違っていないと主は考えている。そのため、3回に分けて、1回目は批判する人で有名人の言説紹介、2回目は新古典派とMMT派の貨幣観と通貨発行益の違い、3回目は供給力と円の海外流出の問題について書きたい。

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まずは、成田悠輔氏。この人は、東大経済学部、東大院経済研究科、MITでPh.D取得、現イェール大学アシスタント・プロフェッサー(助教)で、印象深いメガネとともに、落ち着いた語り口、気の利いた内容の喋りで人気が急激に沸騰した。

しかし、MMTを真っ向から否定する。「MMT論者はバカ」と言い切る。ただ、MMTの貨幣理論のどこが間違っているかという指摘はなく、普通に新古典派経済学を学び、普通に信用乗数で説明する貨幣論をお持ちなのだろうと思う。

心の底からの軽蔑を【成田悠輔】(2022/02/25)

次の動画のキャプションは、成田氏が「この20年以上にわたって、日本が経済成長できないのは何故か」と問われたときに「わからん」と答えたところである。経済学者と言われる人が、日本が経済成長できないことに対して、「わからん」というのはあまりに無責任に過ぎると思う。だが、世間の受け止め方は何故か「正直でよい」と高評価だ。

【成田悠輔】なぜ日本だけ経済成長できないの?・・・わからん(2022/03/01)

次はひろゆき氏。彼はMMT論者を《自称経済評論家》と言い、「日銀がお金をじゃんじゃん刷って国民に配れば、みんなが幸せになる」とMMT信奉者は言うと言う。しかし、MMT論者が言っているのは、日本は欧米に比べると、財政支出の額が少なく経済成長していない、国債の残高は気にすることはない、日本がいい例じゃないか、というのが趣旨で、あまりに雑駁な括り方である。

【ひろゆき】自称経済学者を全員まとめて論破します。MMT論者ってなぜか●●を出さないんですよね(2022/02/14)

次は高橋洋一氏である。キャプションのとおり、「MMT論者が日銀が5,000兆円配っても大丈夫というのを聞いたことがある。」という。そりゃあ、今の日本のGDPが550兆円しかないところに、5,000兆円配ったらハイパーインフレになるだろう。誰が言ったか知らないが、5,000兆円出してもOKと言った人が間違っている。こんなことを根拠にMMTが間違っているというのは、氏こそが間違っている。 

消費増税とコロナの落ち込みが原因で生じた日本のデフレギャップは、政府の発表で20兆円と言われるが、本当はもっと大きいとも言われる。 原油価格高騰などによるコストプッシュインフレなどを加味すると、50兆円以上財政支出しても、欧米並みのインフレ率にならないのではないか。5,000兆円とは常識外れであり、考えられないほど大きすぎる。

第17回 国債は無限に出せる?新経済理論MMTは実は○○○だった(2020/10/24)

次はに中田敦彦氏。中田氏も様々なことをよく勉強されている。だが、彼がMMTを批判するために用いた材料は、太平洋戦争前に高橋是清が国債を乱発し戦争遂行し、戦後ハイパーインフレが起こったとことを説明材料にしている。

しかし、日本の戦後のハイパーインフレは、ジンバブエやブラジルなどのハイパーインフレよりはるかに率が低いこと、また、敗戦で焼土になった日本の供給力はほとんど失われていたので、ハイパーインフレが起こっても当然の状態だった。 現在の日本は、当然ながら、敗戦後の日本ほどひどい状態ではない。ただ、需要不足でデフレが30年続いて、その原因は何なのかというのが問題点である。敗戦後の特殊な状況を説明の材料に使うこと自体が間違っている。

コメ欄荒らしたMMT(現代通貨理論)肯定派に、中田敦彦が猛反論!(2022/01/25)

その1 おしまい

国債発行で国民は豊かになる 信用創造の仕組み

今回は、国債発行で国民が豊かになる、子孫に借金を残すものではないということを説明する。他人のふんどしで相撲を取る的で恐縮だが、分かりやすいYOUTUBEを3点紹介させてもらうことにした。

1番最初の動画は、どんぶり勘定事務所の神田知宜(かんだとものり)さんの動画である。神田さんは、会計事務所を経営されている公認会計士である。MMTの説明は、簿記を使って、取引を会計学的に説明するところに特徴がある。この動画は、信用創造(通貨発行)、国債発行、財政支出までを簿記を使って検証しながら伝えてくれる。その根拠は、日銀の資料を使っており、日銀も認めているものだ。こちらは、簿記さえ分かっていれば、通貨発行とはこういう風にされるのかとか、国債の発行で、誰も損せずにみんなが豊かになる仕組みはこうだったんだと分かる。

主流派経済学者の皆さんに、ここを一番理解して欲しいのだが、彼らは「簿記」自体を軽んじているので、一向に理解しようとしない。そのくせ、間違ったことを堂々と主張するので、30年かけて日本は沈没しようとしている。

その下の2番目は、簿記はわからんという人のために上げた動画である。作られたのは、南青山にてFP会社経営をされているファイナンシャルプランナーのまさとさんである。こちらもおっしゃっている内容は、どんぶり勘定事務所の神田知宜と同じなのだが、簿記を使わずざっくり説明されているのと、逆に日本の経済の現状を広い視点で説明されているので、簿記の知識のない方にはこちらをお勧めする。

どちらも経済学を学んだというより、会計学、特に簿記の勉強をされてきた方々である。これは、いかに簿記という学問がお金の取引の説明に有効か、逆に一、般に言われる経済学者という人たちが、机上の空論を振りかざしとんでもない説明をする原因になっている。

(例えば、簿記を知らない人は、簿記で成り立たない表眼をしてしまいがちだ。例えば、「銀行が国民の預金で国債を買う」という発言は「借金を100万円やるから、その100万円の車を売ってくれ」というのと同じ内容だとおっしゃっている別の動画がある。タネあかしをすると、銀行にある預金は《負債》なので《負債》で、国債という《資産》を買うという意味になり、どちらも、《借方》に上がるので、あり得ない。成立しない。)

さて、最後の3番目の動画は、自民党の中で、消費税の廃止やコロナ禍で企業の粗利補償、個人補償の旗を振っておられる参議院議員の西田昌司さんである。このひとも、めっちゃいいことをおっしゃっているのだが、オールドメディアや財務省などの壁は非常に高く、ぜんぜん受け入れてもらえない。この動画の最後の部分では、敗戦後の日本にGHQが財政法の目的に、《健全経営》、《赤字国債の発行の禁止》を盛り込み、それが日本の成長を阻んできたということが説明される。財政の健全というと「聞こえがいい」が、実はこれが時限爆弾だったという話である

自民党参議院議員の西田昌司氏は、この信用創造の仕組みを踏まえ、財政支出の旗を振っておられる方である。氏は、現在、自民党の『財政政策検討本部本部長』をして、積極財政を主張するのだが、最高顧問だった安倍元首相が亡くなり、高市早苗政調会長は腰砕け(維新の大石議員に、消費税が法人税の穴埋めに使われていると指摘され、ほぼ逆ギレし、消費税法で消費税の使途は法律で定められていると強弁し、炎上した。)で、四面楚歌の状態で、いつ葬り去られてもおかしくない状態だ。

現に、もう一人の財政積極論者である自民党の前衆議院議員の安藤裕氏がおられたのだが、こちらも衆議院選挙前に週刊誌に不倫疑惑が出て、立候補を断念するという事件があった。

ただ、西田氏の言われていることは、正しい!!だが、彼の意見は広がらない。誰か、助けてくれー!!

おしまい

通貨システムに関する考え方の違い 主流派経済学者 vs リフレ派経済学者 vs MMT派経済学者

 下に小黒一正さんの《利上げが日銀財務に与える影響 異次元緩和後に備えより踏み込んだ検討を》をという記事を張り付けさせていただいた。この記事を題材に、主流派の経済学者が考えている日銀や銀行による通貨システムについて、考えてみたい。

この小黒さんなのだが、学部こそ理学部出身のようだが大蔵省で勤務された後、経済学者へと転身された主流派経済学を信奉する学者だと思われる。

この方が書かれた論考(一番下に掲げた。)で、「日銀当座預金に、0.1%の付利をしている、日銀当座預金は庶民から集めたお金だ」という記述が出てくる。ここのところが、主流派経済学者が間違っているところである。 つまり、日銀当座預金というのは、日銀、政府と市中銀行などのための口座であり、基本的に庶民のお金はここには入っていない。

次の《日本銀行当座預金とは何ですか?》は、日銀のHPに書かれた日銀当座預金の説明である。その説明では次のようになっている。

1番目は、金融機関、他の金融機関、日銀と国の間の決済手段と書かれている。これは、A銀行からB銀行へ送金された際、この日銀の中の当座預金をB銀行で増やし、A銀行の残高を減らして決済しているという意味である。つまり、金融機関同士の決済であり、国民に関係ない。

2番目は、金融機関の現金通貨の支払い準備と書かれている。これは、金融機関が現金紙幣(1万円札)が必要になり、日銀に用立ててもらうためのものである。金融機関が紙幣を必要な時に、日銀へ渡すためにのお金である。

3番目は、準備預金制度の対象となっている金融機関の準備預金と書かれている。この意味は、金融機関が預金者から預金を集めた際、その額の1%程度(2022年4月の率は、0.8%)を準備預金として、日銀当座預金に積む義務がある。この準備金は、黒田日銀が異次元の量的緩和を行う前までは、ずっと少なく100兆円以下で推移してきたのだが、日銀が国債を大量に買うので、これが金融機関の当座預金の残高を過去にないほど増やした。このため、準備制度の意味が有名無実化したと言われる。(下の《マネーと名目GDPの推移》表の黒破線参照。)

つまり、日銀当座預金は、庶民のお金が出入りするところではない。

おそらく、小黒さんはこの0.8%のことを預金者からのお金だと、言っているのではなく、銀行預金の原資自体が国民からで、当座預金もそうだと考えているように思える。 もしそうであれば、銀行制度や貨幣制度の理解がMMTの考えと違っているという話である。

日銀のHPから

また、この論では、「563兆円もの日銀当座預金が存在している。この日銀当座預金は民間銀行などがお互いの決済を行うために日銀に預けている口座で、その一部に「付利」と呼ばれる金利を付け、一定の利子を金融機関に支払っている。いま市場金利は概ねゼロのため、この付利は0.1%という低い金利だが、市場金利が上昇してくれば、日銀もそれ相応の付利をつけないといけない状況に追い込まれるシナリオもある。」と書かれているが、これもおかしい。

そもそも、この日銀当座預金の0.1%の付利は、金融機関へのゼロ金利に対する救済策として日銀が始めたことで、当座預金は本来が利子をつけない口座である。現状ゼロ金利のため、金融機関を経営支援するために一部に利子をつけているが、金利が上がってくれば、もとのように利子をつけるのを止める性質の口座である。

黒の破線が日銀の通貨供給、マネタリーベース

付利のことについては、昨日(7月21日)に配信された次の動画でトピックになっている。かなり長いのだが、元日銀の審議委員をされていた原田泰氏(リフレ派の経済学者)、ひろゆき氏が、本音で語っているのでけっこう面白い。

この動画の中身を要約すると、「付利は止めればよかった。」という原田氏の思いのほかに、日銀はこのアベノミクス以来やれることはすべてやってきたが、それ以前の時代に比べるとほんのわずかしか経済が改善しなかった。ただ、この状態で、金融政策を元に戻すと、元のもっと悪い不況へ戻ってしまうだろう。ひろゆき氏が挑発的な言い方をするので、原田氏が本音を言い始めるという感じで、結構盛り上がる。

これまでの失敗の原因は、原田氏は消費増税だと考えている。日銀にできることはもうない。後は、財政の出番だということになる。さらに、話は欧米のインフレ率が10%に近いところまで行っているという話になり、欧米では金融緩和も財政出動も日本以上にやったからで、効果はあった、やりすぎたという分析である。

長いし、原田氏が最初のうちはモゴモゴ分かりにくい表現をされ「じれったい感」があったが、ひろゆき氏のいうことももっともで、最後はベーシックインカムの話になる。これを聞いていると、つくづく日本経済もいよいよ終わりを実感する。誰か経助けてくれーー-!!

次回、何とか、MMT貨幣論のスタートである国債による通貨発行のところを説明したい。

おしまい

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以下は、引用した小黒さんの論考です。

《利上げが日銀財務に与える影響 異次元緩和後に備えより踏み込んだ検討を 小黒 一正》

月刊金融ジャーナル(2022年6月号)から

https://cigs.canon/article/20220624_6806.html ← こちら記事へのリンクです。

  • 「この日銀当座預金は民間銀行などがお互いの決済を行うために日銀に預けている口座で、その一部に「付利」と呼ばれる金利を付け、一定の利子を金融機関に支払っている。いま市場金利は概ねゼロのため、この付利は0.1%という低い金利だが、市場金利が上昇してくれば、日銀もそれ相応の付利をつけないといけない状況に追い込まれるシナリオもある。
  • 「仮にそれ相応の付利をつけない場合、何が起こるのか。そもそも、民間銀行などが日銀に預ける当座預金の原資は、我々が民間銀行に預けている預金であり、日銀が市場金利との見合いで付利を引き上げない場合、理論的に我々の預金金利の一部がカットされることを意味する。」

MMTの話 その3 緊縮財政の根拠法、《財政法第4条、財務省設置法第3条》について

財務省の入り口

MMTは、政府が国債を発行して、公共事業をするなり、個人へ給付するなりすると「国民の資産になる。国民が借金するわけではない。」という。しかしながら、財務省はこうした発言には必ず反発し、財政の収支均衡を訴える。2000年ころからの小泉政権と竹中平蔵大臣が、プライマリーバランスを言い始めた。これは、政府の事業支出が税収でどの程度賄えているかの指標である。

ところが日本は景気が一向に回復しないまま、国債を小出しに発行し続け、とうとうGDPの2倍を超えた。太平洋戦争のガダルカナル戦と同じく、財務省は、戦力(国債)の逐次投入を続けた結果、景気は四半世紀のあいだ上向かず、公共事業は無駄だとさえ言われるようになった。

この頑なな財務省の姿勢はどこから来ているのか、考えてみたい。

結論をいうと、これには根拠法がある。財政法第4条と財務省設置法第3条である。ここに、いわゆる建設国債は財源にしてもよいが、赤字国債はダメだと書かれている。(ちなみに、建設国債も赤字国債も同じ国債である。)

こうした記述があるのはなぜか。これは、日本が太平洋戦争で赤字国債を大量に発行して戦費を調達して戦ったことから、敗戦国にやってきたGHQが、そのようなことを二度と起こせないようにしたということだ。

その意図の是非は別にして、このせいで日本が成長できなくなくなったというのは、非常に情けない。その意図を見抜けなくて、あるいは誤解して、妙な足枷を自分で嵌めてしまったという自覚がないのが情けない。とほほ。

下が、その二つの法律の条文である。

《財政法》第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

《財務省設置法》(任務)第三条 財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。 前項に定めるもののほか、財務省は、同項の任務に関連する特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。  財務省は、前項の任務を遂行するに当たり、内閣官房を助けるものとする。

おしまい