「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」 エマニュエル・トッド その2

エマニュエル・トッドは、確実に「西洋は敗北」すると予言する。世界は、アメリカがリードする形で、戦後80年が経過した。しかし、アメリカがリードしてきた西洋は、自由と平等、民主主義を価値の中心に置き、この30年間、それを実現する方策はグローバリズムと新自由主義だと言ってきた。しかし、30年が経った今、その価値観は世界のどこでも実現せず、経済格差は以前より激化した。数年前、世界のトップ8人の所得が、地球全体の6割の人口の所得に等しいと言われていたが、格差はさらに拡大している。世界の紛争・戦争は亡くならならない。そうした反省から、グローバリズムが失敗だったという勢力と、相変わらずグローバリズムを続けたい勢力の戦いが、アメリカの大統領選挙だった。 今や、世界全体は、日本、韓国を含む西洋とそれ以外の国々に分かれ、中近東のイスラム国や、インドネシアがBRICSに入るようになっている。

そこで、エマニュエル・トッドは、この西洋の側が敗北するだろうと予言する。トランプ大統領は、果たしてどこまでこの敗北を阻止できるのか、というのが現下の最大の関心事である。 以下は、この本からの引用である。

2-1「ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す」

「2023年1月から6月にかけて、ウクライナが必要とする兵器をアメリカが生産できないでいることを多くの研究者が明らかにした。これらの研究は、クレムリンに近い小団体などではなく、アメリカ国防総省や国務省から資金提供を受けているさまざまなシンクタンクが公表したものである。世界一の大国が、なぜこれほど馬鹿げた状態に陥ってしまったのか。・・・・」

「徹底的な批判を始める前に、公平さを保つためにまずアメリカ経済の議論の余地のない強みを指摘しておこう。近年、最も重要な技術革新がシリコンバレーからもたらされたことは論を俟たない。・・・これも近年のことだが、アメリカの石油、特に天然ガスの生産国としての復活も私たちは目の当たりにした。1940年に日量400万バレルだったアメリカの石油生産量は、1970年には960万バレルまで上昇し、2008年には500万バレルに落ち込んだが、戦争直前の2019年には、水圧破砕技術のおかげで1220万バレルまで達している。主要輸出国ではないが、アメリカは石油の純輸入国ではなくなったのである。 ・・天然ガスも同様で、アメリカはロシアに次ぐ天然ガスの輸出国である。・・

「戦争のおかげで、特にロシアからの天然ガス供給を突然遮断されたヨーロッパの同盟諸国に供給できるようになったアメリカは、世界最大の液化天然ガスの輸出国となった。エネルギー分野は、この戦争の明らかな不条理の一つを浮き彫りにしている。アメリカの目的は、ウクライナを守ることなのか。あるいはヨーロッパと東アジアの同盟国を支配し、搾取する事なのか。

「GAFA、天然ガス、シリコンバレー、テキサスというアメリカ経済の強みは、人間の活動範囲の両極端に位置している。プログラミングのコードは「抽象化」に向かうが、エネルギー資源は「原材料」である。この両端の間にこそ、アメリカ経済の弱みと困難さがが存在する。つまり、モノの製造、伝統的な意味での「工業」に当たる部分である。NATOの標準兵器である155ミリ砲弾すら十分に生産できないという極めて陳腐な事態を通じて、この戦争が明らかにしたのは、アメリカに産業基盤が欠落していることである。さらに種類を問わず、いかなるミサイルも十分に生産できなくなっていることが少しずつ明らかになった。」

「物事の正体を暴く戦争は、私たちの(そしてアメリカ自身の)アメリカに対する認識とアメリカの真の実力とのギャップを明らかにしたのである。2022年、ロシアのGDPは、アメリカのGDPの8.8%(ベラルーシと合算すると、西洋陣営のGDPの3.3%)でしかなかった。GDPで見れば、ロシア側をこれほど圧倒していたにもかかわらず、なぜアメリカはウクライナが必要とする砲弾すら生産できなくなってしまったのか。

2-2「米国産業の消滅」

「アメリカ自身によって進められたグローバル化が、アメリカの産業覇権を根底から覆した。1998年、アメリカの工業生産高は世界の44.8%を占めていた。しかし2019年には、16.8%に落ち込んだ。同時期にイギリスは、9.3%から1.8%に減少した。・・・中国は、2020年に28.7%まで増加。ロシアに関する比較可能な統計の少なさを鑑みると、アメリカのある種の航空機が獲得しようとしている「ステルス性能」をこの国の産業が手にしてしまったかのようだ。ロシアはアメリカに対する究極の武器「ステルス産業」なるものを作り上げ、不意打ちを喰らわせたと言えるのではないか。

「グローバル化した世界における「物理的」なパワーバランスをよりよく評価するために、「工業の中の工業」としての工作機械の生産を見てみよう。2018年、中国は世界の工作機械の24.8%を製造し、ドイツ語圏は21.1%、日本は15.6%、イタリアは7.8%、アメリカはわずか6.6%、韓国は5.6%、台湾は5.0%、インドは1.4%、ブラジルは1.1%、フランスは0.9%、イギリスは0.8%だった。わたしは統計の中にロシアを探すことは諦めざるを得なかった。「ロシアが見えない」ことは、想像以上の数値を疑わせるのに十分である。

「モノの製造におけるアメリカの衰退は農業にも見られる。メキシコとカナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に発効されて以降、アメリカの農業は「集中」、「専門化」、「衰退」のプロセスをたどった。第1章では小麦の生産に言及したが、ロシアは2012年に3700万トンだったのが、2022年には8000万トンに達したのに対し、アメリカは1980年に6500万トンだったのが、2022年には4700万トンに減少した。全体としてみれば、かつてアメリカは農産物の一大(純)輸出国だったが、現在はかろうじて輸出入の均衡を保っているにすぎず、むしろ赤字に傾きかけている。今後も人口増加が見込まれることから、10年から20年以内に輸入国に転落するのはほぼ確実だろう。」

2-3 虚飾のGDPという指標(「米国のRDP(国内実質生産)」から)

「アメリカのGDPは、効率性、さらには有用性の不確かな「対人サービス」がその大半を占めている。医者(オピオイド(麻薬)の件では殺人者となる)、法外な高給取りの弁護士、略奪的な金融業者、刑務所の守衛、インテリジェンス関係者などがそこに含まれる。2020年アメリカのGDPは、この国の1万5140人もの経済学者の仕事を付加価値として計上していたが、そのほとんどが虚偽の伝道者であるのに、平均年棒は12万1000ドル(=1900万円)にも達している。真の富の生産にはつながらない。このような寄生集団の活動を取り除いた場合、アメリカのGDPは果たしてどの程度になるのか。」

ここで、トッドは、GDPから生産されない金額を除くRDP(Real Domestic Product)の思考実験をしている。GDPから、なに物も生産しないウォール街の金融業者の報酬、高額な弁護士収入、役に立たない経済学者の給料、アメリカ国民の平均余命が低下しており、過大評価されている医療費などを減じると、一人当たりRDPは、西ヨーロッパ並みの40,000ドルになるという。これは乳幼児死亡率の順位と一致し、ドイツが1位、アメリカが最下位になるという。

トッドの指摘は、つづきます。 

おしまい

「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」 エマニュエル・トッド その1

親爺はエマニュエル・トッドの本が大好きで、かなりかぶれている。彼は、ソ連崩壊、リーマンショック、アラブの春、ブレグジット、第1回トランプ当選を予言した歴史人口学者・家族人類学者である。親爺は、昨年11月に発刊された「西洋の敗北」を紹介しようと思う。これは彼の著作の中でも、もっともストレートな表現で書かれており分かりやすい。しかし、15カ国で翻訳されているにもかかわらず、英語版だけは出版されていないという、過激で説得力のある内容であり、今後世界に何が起こるのかの預言書である。そして、その予言は、西側諸国にとって極めて悲観的である。

まずは、この本のアマゾンのコピーを載せる。その後、親爺の感想を述べる。

1.概要(アマゾンのコピー)

ロシアの計算によれば、そう遠くないある日、ウクライナ軍はキエフ政権とともに崩壊する。
戦争は〝世界のリアル〟を暴く試金石で、すでに数々の「真実」を明らかにしている。勝利は確実でも五年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反露感情と独経済に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立を失った欧州、国家崩壊の先頭を行く英国、フェミニズムが好戦主義を生んだ北欧、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノでなくドルだけを生産する米国、ロシアの勝利を望む「その他の世界」……
「いま何が起きているのか」、この一冊でわかる!

・ウクライナの敗北はすでに明らかだ
・戦争を命の安い国に肩代わりさせた米国
・ウクライナは「代理母出産」の楽園
・米国は戦争継続でウクライナを犠牲に
・米情報機関は敵国より同盟国を監視
・NATO目的は同盟国の「保護」より「支配」
・北欧ではフェミニズムが好戦主義に
・独ロと日ロの接近こそ米国の悪夢
・ロシアは米国に対して軍事的優位に立っている
・モノではなくドルだけを生産する米国
・対ロ制裁でドル覇権が揺いでいる
・米国に真のエリートはもういない
・米国に保護を頼る国は領土の20%を失う
・日独の直系社会のリーダーは不幸だ
・日米同盟のためにLGBT法を制定した日本
・NATOは崩壊に向かう 日米同盟は?

2.親爺の日ごろの疑問や問題意識

親爺は明らかに日本はおかしい、変調していると思っている。世界の中で日本だけがまったく経済成長しないことが第一であるが、毎日起こる殺人や傷害事件、若年者の自殺も昔はここまでなかった。昨年、能登で地震が起こり大災害で、秋には水害も起こった。同じ時期に、台湾で同じ規模の地震が起こり、こちらは回復しているだろうが、両者の対比は一向に報道されない。

他にもいろいろある。カルロス・ゴーンに刑務所から逃げられ、逃げた理由は日本の司法制度の下で無罪になることはまったく期待できないからだという。昨年、羽田空港で自衛隊機と民間ジェット機が滑走路上で衝突したが、管制官を含め原因がはっきりしない。ゴーンにしろ、航空機事故にしろ、こういうことが日本の信用を失墜させるんだよなと思っていた。

BBCの放送が契機(BBCより先にこの問題をガーシーがYOUTUBEにアップしていた)で、ジャニー喜多川氏の少年たちへの性犯罪が常習的に行われていたことが明らかになった。ところが、同じ穴のムジナのテレビ局はジャニーズ事務所だけの問題として、自分の責任を一切、報道しなかった。東京都知事選では、SNS人気を足場にした石丸信二氏が、オールドメディアの予想を覆し、蓮舫氏を押さえ2位に入った。名古屋市長選では、自民、立憲、公明、国民が押した候補が、オールドメディアの圧倒的な下馬評を覆し、日本保守と「減税日本」が押した前副市長に敗れた。さらに兵庫県知事のパワハラ疑惑による出直し選挙では、背後に反知事派県議と職員が企んだクーデターがあったという情報を立花隆氏がYOUTUBEで流し、オールドメディアが思いもよらないほど予想を覆し、斎藤知事が再選した。

今は中居正広氏が、フジテレビの女性社員相手に性加害を起こし、慰謝料9千万円を支払ったと明るみに出た。この事件は、フジテレビ幹部社員のお膳立てで、会社ぐるみだと週刊誌が報じた。多くの人が、テレビがジャニーズ事件で自分を反省しなかったのは、女衒のようなことをしていたからだと思った。フジテレビは物言う外人株主(アクティビスト)の要請に応え釈明会見をしたが、多くのスポンサーが降り存亡の危機にある。中井氏は芸能生活からの引退を表明した。ここでも、フジテレビ以外の放送局は同じ穴の狢でありながら、フジテレビだけの責任というスタンスで放送している。

親爺は、日本中がいつの間にか総不道徳、総無責任、おまけに知的レベルも下がったと思っている。ところが、この「西洋の敗北」を読むと、こうした道徳の喪失、責任感の喪失は、日本だけじゃないんですね。西洋の世界で広く起こっている「自分さえよければいい」という事態が広がっているということが分かる。

2.1 ウクライナ戦争に関する10の驚き

エマニュエル・トッドは、ウクライナ戦争について驚いたことを10個上げている。そのいくつかを紹介したい。

1.1991年12月、ソ連議会がソ連という国の「消滅」宣言をした。連邦を構成する共和国が独立し、ウクライナも独立を宣言した。その後は、人口流出と出生率の低下で5,000万人のうち1,100万人の人口を失い、オルガルヒ(少数富裕層権力者)に支配され、常軌を逸した汚職水準にあり、国家も国民も売りに出されているような状態の「破綻国家」だった。ウクライナ戦争前夜、この国は安価な「代理母出産の地」になっていた。だれも予想できなかったことに、ウクライナは戦争そのものに自国の生存理由と生存の正当性を見出した。

2.敵対する二国がアメリカとロシアだった。アメリカは10年以上、アメリカにとって主な敵国は中国だと示していた。ところが、アメリカ以外の国に住む我々が立ち会っているのは、ウクライナを介したアメリカとロシアの対立である。

3.西洋諸国は経済制裁にSWIFTから排除することで、ロシアがすぐに降参すると考えていた。SWIFTは、世界貿易の決済に使われる通貨の相互送金システムである。ところが、ロシアはクリミア戦争を契機に西側にG8から追い出されるとともに、経済制裁された2014年以来、独自の通貨交換システムを作っていた。SWIFTからの排除という制裁は、西側諸国が考える効果がなかった。

4.20年前のイラク戦争では、ドイツ、フランス、ロシアがアメリカに対し異議を唱えた。しかし、ウクライナ戦争では、エネルギーをはじめとする貿易パートナーであるロシアを切り離すという激しいペナルティを西欧自身に課した。とくにドイツは、アメリカとノルウェーによる天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊を抵抗もせずに受け入れた。

5.最大の驚きは、圧倒的な軍事大国と思われてきたアメリカが、ウクライナに対し砲弾をはじめ、何も確実に供給できなくなっていることだ。GDP比で、西洋諸国(アメリカ・カナダ・ヨーロッパ・日本・韓国)の3.3%しかないロシア・ベラルーシの方が、兵器を生産する力がある。これは、物資不足でウクライナが負けることと、GDPの概念が時代遅れであることを意味し、見直さなければならない。つまり、政治経済学のインチキである。

6.西洋の思想的孤独と、自らの孤立に対する無知である。この戦争が始まったとき、西側諸国は世界中が自分たちの味方になるだろうと思っていた。開戦1年以上の間、中国すら味方になると期待していた。ところが、中国はロシアにつき、インドは関与を拒否した。イランはすぐさまロシアにドローンを供給し、EU加盟国のトルコはロシアと密接な関係を築こうとしている。イスラム諸国もイデオロギー上の敵国より、経済的な協力国とみなしていることがはっきりしてきた。

7.西洋はロシアに攻撃されているのではなく、むしろ、自己破壊の道を進んでいる。われわれは、グローバリゼーションが完成し、最高潮に達し、完了した時代を生きている。(加えると、トッドはグローバリズムに批判的な立場である。)地政学的にロシアをみると、人口が減少傾向で、国土が広すぎるため、ロシアは地球全体のコントロールするのは不可能で、望んですらいない。ロシアは通常規模の勢力で、その発展には何の謎もない。ロシアのいかなる危機も、世界の均衡を脅かすことはない。ロシアではなく、西洋の危機、とりわけアメリカの末期的な危機こそが地球の均衡を危うくしている。その危機の最も外部の波が、古典的で保守的な国民国家ロシアの抵抗の壁に突き当たったというわけだ。

2.2 米国経済の虚飾へ

次のリンクをクリックしてください。https://brasileiro365.com/2025/02/15/%e3%80%8c%e8%a5%bf%e6%b4%8b%e3%81%ae%e6%95%97%e5%8c%97%e3%80%80%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%a8%e4%b8%96%e7%95%8c%e3%81%ab%e4%bd%95%e3%81%8c%e8%b5%b7%e3%81%8d%e3%82%8b%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%80%8d%e3%80%80-2/

おしまい

財務省の連中はこれをみろ!!!マスコミも見ろ!!!・・・・「イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章」

https://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=1679 「入るを量りて出を制す」といった二宮尊徳像。民間や個人なら正しいですが、国は違います。

《財務省よ、オマエは大福帳による財政運営、二宮尊徳をいつまでやるんだ!》

日本の財務省は、「予算を使うためには、税収の根拠がないと支出ができない、国債の発行も返済しなければならないので、子孫にツケを残すので許されない。」というのだが、「これは家計や民間企業に当てはまっても、政府は通貨発行権を持っている。政府が発行する国債を使い通貨の量を調整することで、好景気にも不景気にもなる。国債発行は、子孫のツケにはならない。」と、まえまえから、親爺は言ってきた。

なぜ?と思われる方が多いと思うが、この財務省の考えは、1971年にニクソン大統領が通貨と(きん)(きん)との交換を完全に停止して終わった。つまり、どこの政府も(きん)(きん)のあるなしに関係なく、通貨を発行できるようになったからだ。

《この本に書かれていること》

1.世界中で大量の通貨が発行されている

2023年8月にこの本は、経済の入門書というふれこみで、「イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章」(ルパル・パテル、ジャック・ミーニング著、村井章子訳 すばる舎)が出版された。

二人の著者のルパル・パテルとジャック・ミーニングは、イングランド銀行のエコノミストで、ロンドン銀行は、2017年以降、銀行スタッフはロンドンを飛び出し、イギリス各地を回り、市民の経済学の理解を深める任務を与えられているらしい。

この本の「世界中で大量にお金が創られている」と書かれた章に次のように書かれている。以下「 」(かっこ書き)は、この本の引用である。

「・・・イングランド銀行は1兆ポンド(=186兆円)を新たに創造し、英国債をはじめさまざまな金融商品を購入した。・・・一人当たりおよそ1万5千ポンド(=280万円)になる。アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、7兆ドル(=1,050兆円)を欧州中央銀行(ECB)も同等額のユーロ(=1,134兆円)を創造した。どれも虚空からひねり出したように見える。」

このあと本書では、このような政策を西欧諸国がとった理由は、1990年代にバブル崩壊した日本がデフレ脱出策である前黒田総裁の異次元の量的緩和策QEにFRBが追随したからだと書かれている。

2.お金が生み出されるしくみ

① 銀行券・準備預金・預金通貨

「第1の種類のお金は、中央銀行が発行する銀行券(紙幣)である。この銀行券は誰でも持てるし、手から手へと渡り、そのたびに所有権が移転する。第2の準備預金は、大方の人が目にすることがない。というのは、銀行同士の決済に使うために銀行が保有するお金だからだ。銀行は、中央銀行に口座を開設し、そこにこのお金を預けておく。ちょうどあなたや私が民間銀行の支店の口座にお金を預けるように。この第2の種類のお金には準備預金という名前がついている。」

「わたしたちが、日頃お世話になっているのは、第3の預金通貨である。読者はショックを受けるかもしれないが、この第3のお金には国家に対する請求権がない。なぜならこのお金は、民間銀行、つまり民間企業に対する借用証書にほかならないからだ。あなたが、銀行からお金を借りるとしよう。たとえば住宅ローンを借りると、銀行はあなたの口座残高に貸し出した金額を書き加える。これが第3のお金、すなわち預金通貨である。」

「私たちは日々銀行を利用しているが、いまポケットに入っているのも銀行通帳に印字されているのも同じお金だと思っている。だが、実際には両者は同じではない。これは、現代の経済における貨幣に関して、あまり知られていない驚くべき事実の一つだと言えよう。私たちが日々使うお金の大半は、中央銀行が発行したものではないのである。」

「中央銀行は、たしかにお金を発行している。経済に参加する人々の需要に応じて紙幣を発行しているし、準備預金の形で銀行システムに電子的に資金を供給している。だが、システムの中にあるお金の大半は、中央銀行ではなく民間銀行が作り出したものだ。お金を作るといっても、印刷するわけではない。単に記帳するだけだ。」

② こうして銀行が通貨を創る

「いったいなぜそんなことができるのだろうか。古い経済学の教科書を読んだ人は、銀行は人々が預け入れたお金を別の人に貸し出すと理解したことだろう。銀行制度についてのこのような考え方は、「貸付資金説」に基づいている。貸付資金説は、長いこと経済学説のよりどころだった。この考え方はモデル化しやすいし、直感的にも理解しやすい。だが、残念ながら、現代の経済を特徴づける重要な点の多くが見落とされている。・・・・・・・」

③ ただし無制限に増やせるわけではない

「だとすれば銀行はいくらでも貸し出しをして預金通帳を増やせそうなものだが、なぜそうしないのだろうか。理由の一つは、銀行が自ら制約を課しているからだ。彼らには利益を上げるという目的があるので、野放図に貸し出しすのは好ましくない。確実に返済し銀行に利益をもたらしてくれるような相手に貸し付けたいと考えている。

3.財政出動に必要な資金はどうするのか

国債の発行

「ここまで読んできた読者には一つの疑問が浮かんだことと思う。政府は無制限に減税を行って支出を増やし、経済に刺激を与え続けることができるのか、という疑問だ。・・・・政府支出が税収を上回った場合、差額は借金で埋め合わせるほかない。政府はそのために国債を発行する。国債は国家の借用証書である。・・・とはいえ、国家の財政と家計は同じではない。まず、政府は死なない(ここの政権は死亡宣告をされるかもしれないが)。だから、借金をどんどん先送りすることが可能だ。・・・・加えて、経済効果に期待することができる。たとえば、政府が新しい高速道路を建設するとしよう。総工事費は10億ポンドだが、最終的に20億ポンドの経済効果が期待できるとする。政府はこの費用を国債で賄う。そして償還期日が到来したときには、経済は拡大して税収は増えている。つまり高速道路の建設自体が必要な費用を生み出すわけだ。このケースでは、債務の総額が増えても、経済規模に対する債務の比率は下がっている。 また、経済自体の規模も長期的には拡大していくので、経済規模すなわちGDPに対する債務の比率は自然に低下する。・・・・じつのところ、政府が債務を返済しようと大幅増税をしたり支出を大幅削減したりすれば、経済成長に急ブレーキがかかるので、財政健全化の試み自体自殺行為となる恐れがある。経済成長がゼロになってしまったら、政府債務ははるかに大きな負担となってのしかかってくるだろう。」

《結論》

MMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣論) を解説されている学者に中野剛志さんがおり、彼は通貨発行の仕組みを解説のにイングランド銀行のホームページを使っていました。それを思い出して、本書を手に取ったら、とてもおもしろい。よくかかれています。

日本は、バブル崩壊以後まったく経済成長をせず、この30年間で日本国民は非常に貧しくなりました。この原因は、財務省と(主流派の)経済学者たちが、世界の考えとは違う、間違った経済観をいまだに持っているからです。おまけに、マスコミが無批判に追従するため、国民のほとんどもそう思っています。

この本に書かれているように、世界のどの国の国債残高も経済の成長につれて、絶対額は増えていくものです。国債の償還時期が来ても、償還を繰り延べるだけで、実際に返済していません。ところが、日本だけが実際に国債を返済しようとしています。他国にない60年ルールというものを作って返そうとしているのです。

コロナ後のこの2年間、まがりなりにも財政拡大したので、税収は見込みを上回りました。総理大臣がこれを「国民に還元する」といったら、財務省は「国債の償還財源に使ってもうありません」と財務大臣に言ったのです。こんなことでは、いつまでたっても国民は浮かばれません。 いかげんにしろ、財務省!!

おしまい

《ホス狂い》のトー横キッズたち 若者よ、日本を捨てろ!脱出せよ!

● 日本で生まれた若者のうち、半数以上は希望がない。ひと月働いて、20万円になるかならないかの給料しかもらえず、税金や社会保険料を引かれると、手取りは15万円程度にしかならない。そんな金額では、家賃、食費などの必要経費を払うと、趣味や好きなことに使うお金は全くない。貯金もできない。 大学に行ったとしても、卒業時にに《奨学金》という、実際は借金である《学生ローン》を抱えた卒業生たちが5割に上り、平均300万円のローンを抱えて卒業する。

● この《学生ローン》を抱えた卒業生は、ハンディキャップを抱えて、はるか後方のスタートラインから社会人人生を始めることになる。ローンを抱えた女子学生の大半は、給与が安くて普通に結婚して子供を作るなんてまったく考えられないと言うし、男子学生も恵まれた会社に入れなければ、結婚を考えられないだろう。生涯未婚率は年々増えている。

● 歌舞伎町にはトー横キッズと呼ばれる、ホストクラブでホストに貢ぐお金を稼ごうとする売春目当ての若い少女たちが大量にいて、中高齢の小金を持ったおっさんや風俗スカウト、AVの撮影者たちがその若い肉体を求めて集まってくる。その少女たちは、ごく普通の少女たちなのだが、多くがホストクラブの《底なし沼》にハマった少女たちだという。最初の1回だけ、1000円、2000円でホストクラブへ行けるらしい。そこで代わる代わるイケメンのお兄ちゃんたちと楽しい会話をして、自分をすべて肯定してくれる人生最高の時間を過ごし、舞い上がってしまう。 

● 親爺は思うのだが、日本の若者の《学校教育》は、勉強(成績)第一で、協調性を重んじ、出るくぎは打たれる的な社会全体の雰囲気と画一的な教えで、若者はがんじがらめにされており、一握りの《東大》に入った成績優秀な子だけが認知されるような社会になっている。そうでない子にとっては生きていても楽しくない。特に女子は、家庭的で我慢づよく優しく、男にとって可愛いことを求められる。こんな国は、ほとんどの女子にとってストレスたまり放題だ。そんな彼女たちは、初めて行ったホストクラブで、過去になかった楽しい経験をして、簡単に《ホス狂い》になってしまう。

● 2回目以降に行くホストクラブは、《担当》のホストに貢げる限りのお金を貢ぐことになる。ホストの成績は、売り上げで決まる。ホストの成績を上げるために、シャンパンを入れたりすると、20万円ほどかかる。普段の日常生活では大した給料をもらっていない彼女たちは、軽い決心で風俗へと走り、ホストへ貢ぐお金を稼ごうとする。つまり、《空気を吸うように自然に売春する》ことで、中高年のおっさんたちから数万円の小金を巻き上げ、少女たちがそのお金をホストへ貢ぐ《食物連鎖》が出来上がる。 

●「歌舞伎町と貧困女子」を書いた著者の中村淳彦さんは、Z世代(2000年以降の生まれの若者)の普通の女子が、自ら貧困へと《ホス狂い》に陥る現象が、歌舞伎町で起こっていると書いているが、やがて東京の隣接県へ、地方都市でも起こるだろうと書いている。

「トー横キッズ」の少女を売りさばく歌舞伎町・悪徳スカウトの手口

https://www.news-postseven.com/archives/20211214_1714202.html?DETAIL ☜記事本文

● コロナでアルバイトが出来なかった女子大生のうち、地方から上京してきた多くの女子大生たちは、学校へも行くことが出来なかっただけでなく、田舎へ帰ることすらも出来なかった。それでも授業料はほとんど免除されなかった。景気の良かった時代と違って、親からの仕送りはゼロか、あっても一部分だけだ。そんな彼女たちが生活していくためには体を売るしかない。パパ活、AV出演、デリヘル、ピンサロ、大学がひしめく沿線の待機所は部室のようになったという。

● 男子学生は、闇サイトで見つけた裏バイトの犯罪に走る。マスコミは、毎日あちこちで警察からリークされた犯罪報道を垂れ流している。マスコミは、なぜそういう犯罪が増えているのかという原因を追究する角度からは決して報道せず、不安を煽って、犯罪に引っかからないよう注意を促すだけだ。

● 若い男子は、本来老人を軽々と否定し、乗り越えたいはずだ。ところが、そのような態度をとれば、会社でのポジションが危うくなる。それで必要以上にいい子を演じて、料理も育児も、家事も分担する良い子であることを続ける選択肢をとる。つまり、ヤンキーの居場所がどこにもなくなった。 再度言うが、若者、とくに男子は、年寄りを否定して社会を変革したいはずだ。ところが、そのための勉強を教わっていないので、同じ社会の中で守旧派を演じざるを得ない。

● 自民党をはじめ、野党ですら既成政党の政治家のほとんどが、坊ちゃん、お嬢ちゃん育ちの世襲議員でまったくの世間知らずだ。世襲議員でない場合は、前職が霞が関のキャリア官僚経験者であったり、経営者などの恵まれた環境で育ったボンボンたちばかりだ。当然ながら、多くの若者がお金がなくて体を売ったり、犯罪するしかないなどの状況に追いやられているとは想像力が働かない。かりに、知識として知っていても、若者の投票率は低いから、若者のための政策をしようとは思わない。新しく生まれた政党には、国民のことを考えている政党がいろいろあるが、なにしろ人数が少なすぎるので、何の力も発揮できない。

「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退
(東洋経済から)

● 上のチャートが、よく言われる過去30年間の日本の経済政策の失敗の歴史である。これを見ると、日本の経済成長は30年間ほぼゼロである。一人当たりGDPで、韓国に抜かれ、チャートにはないが台湾にも抜かれたという。GDPの合計値で、ドイツに抜かれるのも時間の問題で、世界第4位に転落する日も近いと言われる。結局、この経済政策の失敗が、若者にしわ寄せを起こした。老人は、比較的貯蓄もあり比較的気ままに暮らしているのだが、多くの若者は世界の成長から完全に取り残され、悲惨だ。

ところが、海外で頑張れば・・

● 海外へ行けば、職業によるだろうが、大変な介護や肉体労働などでは月に100万円近く稼げる。下のリンクは、NHKのクローズアップ現代という番組が、日本を脱出した若者が、海外で日本の数倍の給料を手にするだけでなく、《希望》も見つけたという内容だ。

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4746/ ☜こちら記事のリンク。詳しく読むことができます。

おしまい

MMTの話 その3 緊縮財政の根拠法、《財政法第4条、財務省設置法第3条》について

財務省の入り口

MMTは、政府が国債を発行して、公共事業をするなり、個人へ給付するなりすると「国民の資産になる。国民が借金するわけではない。」という。しかしながら、財務省はこうした発言には必ず反発し、財政の収支均衡を訴える。2000年ころからの小泉政権と竹中平蔵大臣が、プライマリーバランスを言い始めた。これは、政府の事業支出が税収でどの程度賄えているかの指標である。

ところが日本は景気が一向に回復しないまま、国債を小出しに発行し続け、とうとうGDPの2倍を超えた。太平洋戦争のガダルカナル戦と同じく、財務省は、戦力(国債)の逐次投入を続けた結果、景気は四半世紀のあいだ上向かず、公共事業は無駄だとさえ言われるようになった。

この頑なな財務省の姿勢はどこから来ているのか、考えてみたい。

結論をいうと、これには根拠法がある。財政法第4条と財務省設置法第3条である。ここに、いわゆる建設国債は財源にしてもよいが、赤字国債はダメだと書かれている。(ちなみに、建設国債も赤字国債も同じ国債である。)

こうした記述があるのはなぜか。これは、日本が太平洋戦争で赤字国債を大量に発行して戦費を調達して戦ったことから、敗戦国にやってきたGHQが、そのようなことを二度と起こせないようにしたということだ。

その意図の是非は別にして、このせいで日本が成長できなくなくなったというのは、非常に情けない。その意図を見抜けなくて、あるいは誤解して、妙な足枷を自分で嵌めてしまったという自覚がないのが情けない。とほほ。

下が、その二つの法律の条文である。

《財政法》第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

《財務省設置法》(任務)第三条 財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。 前項に定めるもののほか、財務省は、同項の任務に関連する特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。  財務省は、前項の任務を遂行するに当たり、内閣官房を助けるものとする。

おしまい