安達誠司さんの「ユーロの正体」(2012年11月幻冬舎新書)と「円高の正体」(2012年1月光文社新書)、池上彰さんの「池上彰のやさしい経済学2ニュースがわかる」(2013年11月日経ビジネス人文庫)の3冊を読んだ。池上彰さんの本は、読了したわけではなくざっと目を通したというところだ。
安達誠司さんの「ユーロの正体」はちょうどリーマンショック後のユーロ危機(PIGSと言われるポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペインの通貨危機)のあと出版された。それは、アメリカ発のサブプライムローンに端を発したリーマンショックにより、好調だったユーロが変調し、ギリシャは粉飾決算していたことがばれ、スペインなどでは住宅バブルがはじけ、経済が急速に悪化した。
EUは政治状況、経済状況や雇用環境などさまざまに違う国々が、そうした諸条件が揃わない状況にもかかわらず、理念を性急に追求し、各国の通貨を捨てユーロに通貨統合してしまった。このことにより、金融政策は欧州中央銀行(ECB)のみが行い、各国ごとの政策が採れなくなった。こうなることは、国ごとの不況や景気過熱に対する対処方法が致命的になくなったことを意味する。すなわち、共通通貨ユーロを使うということは、域内の各国にとって為替レートを固定するということと同義になる。ドイツは、生産性の向上の儲けがマルク高になることで相殺されていたが、ユーロに代わるとどんどん競争力を増した。一方で、農業と観光を除けば取り柄のないギリシャのような国が、レートを固定してドイツなどの優等生と同じ土俵で共存するのは無理がある。
イギリスはユーロに入っていない。これは、ユーロの前身であるEMS(European Monetary System)時代に、為替安を見越したジョージ・ソロスが率いるファンドにポンドを売り浴びせられ、ポンドは暴落、変動相場へ移行せざるを得なくなったものだ。
今年、再びギリシャ危機は起こった。なんとか、EUはギリシャに借金を貸し続けることを決め、ギリシャはEUに残っている。しかし、主のブログで紹介したとおり、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツが、EUを出るべきはドイツだと言うほど矛盾は大きい。金融政策をとる余地のないギリシャにとって、EUから強制される緊縮策は出口がないとわかってくる。
一方「円高の正体」は、「円安」の今何を言うのかと感じるかもしれないが、現在でもこれまでの円高とアベノミクス以降の円安を理解するうえで、格好の書籍である。
この本では、話を単純化するために、為替レートを流通する貨幣量の比率だと説明している。普通、為替レートの説明では、購買力平価説を紹介し、二国間のマクドナルドのハンバーガーの値段の比率や、金利差などを根拠にあげることが多いのだが、単純化することで非常にわかりやすくなっている。また、バブル崩壊後ずっと、いかに人為的に円高誘導され、不況を克服するために行った財政出動が効果を上げずに、日本の借金を増やしたということが理解できる。不況下で行う消費増税が如何に逆効果か、ということもわかる。
この安達誠司さんの2冊は、経済をわかりやすく理解させ、同時に時代を超える普遍性があるので、今でも読む値打ちがある。
ところで主は、最近日経新聞を取り始めた。このおまけとして、3冊の書籍のうちから1冊を選ぶことが出来た。それで池上彰さんの「池上彰のやさしい経済学2ニュースがわかる」を選択した。池上彰さんは、テレビにしばしば登場し、書店には大量のベストセラーが並んでいる。非常にわかりやすく物事を掘り下げて説明してくれるので主もファンである。
しかし、この本は経済の主だったトピックをわかりやすく説明しているのだが、現在行われている「量的緩和」には触れていない。「流動性の罠」(金利はゼロ以下にできないため、その状態では金融政策が効かなくなること)というやや専門的なことについて触れているのだから、浜田宏一、安達誠司さんなどリフレ派の「量的緩和」により市中の貨幣流通量を増やし、その貨幣が国債や株式などの投資市場に流れることで資産効果を上げ、インフレ期待をを生み出そうという主張を紹介しないというのは、残念で公平でないような気がする。